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2011年6月12日 (日)

【映画】「アトムの足音が聞こえる」

「アトムの足音が聞こえる」

 テレビや映画でさり気なく耳にする効果音。扉をしめればバタンと音がする。ヒールを履いて歩けばコツコツと音がする。しかし、現実には存在しない音はどうやって表現すればいいのか。例えば宇宙を漂う音、体内のミクロな世界で細胞が動く音など、現実にはあり得ないシーンでも効果音が鳴り響くのを我々は当たり前のことのように受け止め、むしろそのシーンに説得力を感じていることがある。効果音の不思議、それをこの映画では次のように定義する──本物よりも本物らしい音、本物を超えた音。

 日本初のテレビアニメーション「鉄腕アトム」で音響効果担当として起用された大野松雄が奔放なイマジネーションで次々と作り出した「音」は音響効果の概念を根本的に変えてしまった。関係者の証言も交えながら、この世ならぬ「音」の世界を切り開いていった大野の生涯をたどったドキュメンタリーである。彼は一時期、カールハインツ・シュトックハウゼンの電子音楽にはまっており、そこから得たインスピレーションも活用されているらしいというのは初めて知った。

 もともと映像の仕事での効果音担当者の地位は低かったらしく、大野が「効果の大野さん」と呼ばれると激怒し「音響デザイナー」という呼称にこだわったというあたりには、自分たちの仕事が正当に評価されていないという不満が込められていたようだ。彼には放浪癖があるのか、借金取りに追われて「亡命」し、表舞台からは姿を消していた。見いだされた現在の彼は、知的障害者施設で合唱指揮をしている。以前、知的障害者を題材とした記録映画の音響効果を担当したとき監督の「上から目線」に反発して、自分自身でこのテーマに取り組み始めたという経緯もあるらしい。この世ならぬ宇宙の音を奔放に追及する姿、同時に「上から目線」を嫌って知的障害者たちの中で交わる姿、両方が一点に結び付いたところに立ち現れてくる大野という人物そのものに不思議な魅力を感じる。音響効果の奥深さを彼の人物的魅力を通して描き出しているところが本当に面白いドキュメンタリーだ。

 音響効果にまつわる人物のドキュメンタリーとしては、以前に観た「テルミン」も面白かった。例えばUFOが出てくるシーンで流れるファーンという音を手かざしで出す不思議な楽器を開発した旧ソ連の科学者の名前でもあり、楽器名でもある。

【データ】
監督:冨永昌敬
2010年/82分
(2011年6月10日レイトショー、渋谷・ユーロスペースにて)

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