J.リンス&A.ステパン『民主化の理論──民主主義への移行と定着の課題』
J.リンス&A.ステパン(荒井祐介・五十嵐誠一・上田太郎訳)『民主化の理論──民主主義への移行と定着の課題』(一藝社、2005年)
・非民主主義体制から民主主義体制への移行の完了、定着するまでの政治的プロセスについて諸類型を提示しながら分析した研究。
・民主主義を成り立たせる5つの主要領域:①自由で活力のある市民社会、②相対的に自立した政治社会、③市民社会や政治社会における自由を保障する法の支配、④民主政府に有用な官僚層としての国家機構の整備、⑤制度化された経済社会(国家と市場との媒介)→これらの領域が相互に関連しながら機能しているのが民主主義体制。これらのうち欠如している領域の創出が民主主義への移行、定着に必要だという考え方。
・国家性の問題。ある組織単位の構成員になることを望まない人々の割合が高いと、その中での民主主義の定着は難しくなる。多民族国家において政治的アイデンティティが混在、多民族・多言語・多宗教・多文化→合意形成が複雑→民主主義的規範や制度を幅広く作りあげる必要。
・フアン・リンスはかつて民主主義と全体主義という両極の間のグレーゾーンに固有の内在論理を持つ政治体制を見いだし、それを「権威主義体制」と呼んだ(高橋進『国際政治史の理論』[岩波現代文庫]に議論の要約が示されていた記憶がある)。本書ではさらにポスト全体主義、スルタン主義を追加→民主主義、全体主義、ポスト全体主義、権威主義、スルタン主義という5類型について多元主義、イデオロギー、動員、リーダーシップという4つの側面から特徴づけ。
・非民主主義(全体主義、ポスト全体主義、権威主義、スルタン主義)の4類型から民主主義定着に必要な領域の構築しやすさを分析、移行経路のパターンを検討する。
・移行にあたっての条件→旧体制のリーダーシップ、移行の担い手、国際的影響、正統性と強制の政治経済、憲法制定環境について検討。
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