ブログ更新を怠っていたからと言って、読書してなかったわけではないんだけど、ここのところ、あまり気合が入っていないのも事実だな、などと思う今日この頃。とりあえず、今週読んだ中国関連本12冊。別に論評しているわけではなくて、単に読んだよ、というメモに過ぎないので、念のため。
津上俊哉『岐路に立つ中国──超大国を待つ7つの壁』(日本経済新聞出版社、2011年)
・中国が直面しつつある課題を「7つの壁」と表現、難易度の低い順番から①人民元問題、②都市と農村との差別的な二元構造、③「官の官による官のための経済」(官製資本主義、国進民退)の行き詰まり、④政治改革は進むのか? ⑤歴史トラウマと漢奸タブー、⑥急激な高齢化「未富先老」問題をどうするか? ⑦世界に受け容れられる理念を中国は語れるのか?といった問題点を指摘。課題ごとに政治・経済・社会的背景を整理・解説してくれるので、現代中国について大きな視点から考えるとっかかりとして勉強になる。
・漢奸タブーという論点に関心を持った。つまり、対日関係について中国内部でも柔軟に考えようとする論者が存在するが、そうした新思考を日本側で「日本はもう謝罪しなくていい、と言っている中国人がいるぞ!」と鬼の首をとったように喧伝→彼らの中国内部での立場を悪化させてしまい、日中関係にとってかえってマイナスになってしまった問題。彼らは漢奸として糾弾されることになってしま、日中提携を考える中国人に「日本はハシゴを外す」というトラウマを残してしまった。汪兆銘を例示。
呉軍華『中国 静かなる革命──官製資本主義の終焉と民主化へのグランドビジョン』(日本経済新聞出版社、2008年)
・天安門事件後、共産党はイデオロギー的革命政党ではなく、政権維持を至上命題とする開発独裁型政党に変身、これに伴って経済界の利益を優先する政策を展開→官製資本主義。いわゆる「三つの代表論」も全民的というよりは経済界との利益的同盟関係を正当化するものだったと指摘。
・一般的に中産階層は民主化支援に向かうと考えられるが、中国の場合、中産階層そのものが共産党によって育成されて恩恵を蒙ってきたため、彼らは共産党支持。共産党はさらに知識階層の取り込みも積極的。共産党はこうした各階層との同盟関係や権威主義的傾向によって弱者階層を押さえ込み。
・他方、体制内部で政治改革への助走はすでに始まっており、2012年以降に本格化するだろうと予測。
丸川知雄『「中国なし」で生活できるか──貿易から読み解く日中関係の真実』(PHP研究所、2009年)は毒ギョーザ事件の騒ぎを受けて刊行された本。中国から輸入されている品目を一つ一つ具体的に取り上げながら、「中国製品は危ない」という誤解を解きほぐしていくのが趣旨。むしろ経済的相互依存関係の進展を強調する。
丸川知雄『現代中国の産業──勃興する中国企業の強さと脆さ』(中公新書、2007年)は、中国における家電、IT機器、自動車といった電機産業を分析。モジュール化等で進展する「垂直分裂」がキーワード。日本が「閉じた垂直分裂」であるのに対して、中国は「開かれた垂直分裂」であると指摘。中国のメーカーは基幹部品を日系メーカー等に依存、ただし見方を変えれば、外国メーカーの力を利用しながらも自立的な企業を生み出した工業化戦略と捉えられる。
大橋英夫・丸川知雄『叢書★中国的問題群6 中国企業のルネサンス』(岩波書店、2009年)
・中国の国有企業、民間企業、外資系企業それぞれの背景や特徴を解説。ルーツをたどれば清朝末期や民国期までさかのぼる企業はあるにしても、1950年代にすべて国有化されたので、民間企業そのものは現代中国では新しい。
・本来なら企業は株主総会や取締役会で意思決定をする。ところが、中国では社内でも共産党の序列の高い者に実権があり、企業は党という企業外の指令で動かされる側面がある。
・税法の体系が未整備であり、通達等で済ませているケースが多い→行政の末端まで税務知識が行渡っていないことが多く、現場の裁量で決着→税負担について予測不可能な要素が大きく、企業経営の方針決定にマイナス。
・モジュラー型製品によって技術的な参入障壁が引き下げられ、労働集約型産業として外国企業の中国進出。工程間分業として東アジア全体で重層的な生産・輸出ネットワークの形成。いったん産業集積が現れると新たな投資を呼び寄せる。→こうした直接投資=貿易連鎖による対中投資急増は、東アジアの雁行形態論による従来の説明とは異なる展開であることを指摘。
郭四志『中国エネルギー事情』(岩波新書、2011年)
・経済成長を支えるためエネルギー資源確保に向けて国家戦略を展開すると同時に、環境汚染や地球温暖化対策も考えなければならない中国のエネルギー事情、その全体像を解説。再生エネルギーに力を入れようとしていると共に、原発も拡大傾向にあるのは気になるところだ。
遠藤誉『拝金社会主義 中国』(ちくま新書、2010年)は、改革開放で国民みんなが一挙に金儲けに向かった中国の、とりわけ結婚、大学と就職、社会的格差の問題を取り上げる。
遠藤誉『ネット大国中国──言論をめぐる攻防』(岩波新書、2011年)は、いわゆる「八〇后」のメンタリティーに目配りしながら、ネット世代の中国を考察、とりわけネットを部舞台として官民攻防戦が興味深い。
麻生晴一郎『反日、暴動、バブル──新聞・テレビが報じない中国』(光文社新書、2009年)は、反日か否かという論点はあくまでも話題の取っ掛かりで、読んでみるとタイトルが醸し出すイメージとはちょっと違う。辺縁の芸術家たち、人権問題や社会活動に地道に取り組む人たちなど、政治的次元ではなかなか見えづらい人々の息吹を汲み取ろうとしたルポルタージュ。
吉岡桂子『愛国経済──中国の全球化』(朝日新聞出版、2008年)は経済や社会問題についてのルポルタージュ。
柴田聡『チャイナ・インパクト』(中央公論新社、2010年)は中国における経済運営の内在的なメカニズムを考察する。
明木茂夫『オタク的中国学入門』(楽工社、2007年)は、と学会レポートと銘打っているだけあって題材はキワモノ的だが、それをとっかかりに中国の言語・歴史・社会について傾ける薀蓄は奥深くて、実はなかなか勉強になる本なのだ。
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