川本三郎を5冊
ここ2週間ばかり色々あって疲れておって、久しぶりの更新。リハビリ代わりに川本三郎さんの本を5冊ほど立て続けに読んだ。何と言ったらいいのか、薀蓄の出し方や文章の堅くもなくしかし抑え気味なところが私自身の体感リズムにしっくりくるというのか、読みながら身を委ねていると心地よいのである。
『言葉のなかに風景が立ち上がる』(新潮社、2006年)は書評エッセイ集だが、文学作品を読解するというよりも、作品世界を成り立たせている風景を見る。風景があってはじめてその中にいる人間模様が物語となって現れる。都市空間との関連で文学を読み解いていく川本さんの視点の先達として、奥野健男『文学における原風景 原っぱ・洞窟の幻想』(集英社、1972年)、磯田光一『思想としての東京 近代文学史論ノート』(国文社、1978年)、前田愛『都市空間のなかの文学』(筑摩書房、1982年)の3冊が挙げられている。『郊外の文学誌』(新潮社、2003年)は東京が拡大しつつある空間としての郊外を舞台とした作品を取り上げている。
『今日はお墓参り』(平凡社、1999年)は、知名度は低いが興味深い文人・芸術家・映画人・芸能人の短い連作列伝といった感じ。この本はなかなか好きだな。
『いまも、君を想う』(新潮社、2010年)は、亡くなったファッション評論家・川本恵子夫人への追悼文。はあ、川本さん、奥様にずいぶん甘えっぱなしだったんですなあ、と思いつつ、『マイ・バック・ページ』とはまた違った形で文筆活動に入ったばかりの時期のことをつづっているのは興味を引いた。文学評論として作品の良し悪しを高踏的に分析・批判するのではなく、自分が好きなもの、面白いと思ったものを素直に紹介していけばいいという態度は恵子夫人との会話の中で感じたことだという。なお、彼に物書きになれと勧めたのは松本健一だったらしい。
『小説、時にはそのほかの本も』(晶文社、2001年)は、あちこちの媒体に掲載された書評を集めたもの。
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