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2011年5月16日 (月)

【映画】「そして、一粒のひかり」

「そして、一粒のひかり」

 コロンビアのある田舎町、工場で花の枝きり作業に従事する17歳の少女マリア。妊娠して仕事中に具合が悪くなったが、工場主任の容赦ない態度に反発して辞めてしまった。恋人は頼りにならず、家族からは収入源を絶たれたことを一方的になじられるばかり。嫌気がさして町を出ようとするが、そんな彼女の前に降ってわいたようなもうけ話。麻薬を胃の中に隠してニューヨークへ持ち運べば五千ドルもらえるという。どうにもならない立場に追い詰められていた彼女は不安を押し殺すように麻薬の運び屋となって飛行機に乗った。そして目の当たりにした苛酷な現実──。

 生活苦から麻薬密売という非合法活動に踏み込まざるを得なくなってしまった社会背景を、一人の少女の視点を通して浮かび上がらせている。実際の麻薬の運び屋への取材なども踏まえ、設定はリアルに描かれているらしい。

 身の危険を感じて麻薬の売人のアジトから逃げ出し、あてどもなくさまようニューヨークの街並み。不安に苛まされる彼女の視線を通すとそれは灰色にくすんだ殺風景なものとして映り、その中でも目に入るごく当たり前の日常生活を送る人々の姿は、余計に自分の不安と孤独感とをいっそう強めてしまう。このときの憂いを帯びた表情は、コロンビアの故郷で広々とした青空を見上げたときとは明らかなコントラストをなしている。

 どうしてこんな羽目になってしまったのか。当然ながら後悔の気持ちで押し流されそうなはずだが、それでもしっかり前を見据えようとする彼女の眼差しは、不安に揺れながらも、むしろその動揺に抗おうとする気持ちが見えるからこそ凛々しい。道は前にしかないのだから。彼女がアメリカに踏みとどまろうとするのは、アメリカで子供を産めばその子には自動的に市民権が付与されるのを見越してだろう。とりあえずは麻薬の運び屋から足を洗うことができた。しかし、国へ戻らないという決断、そこに希望を見出すしかないのだとしたら、この現実はあまりに哀しい。

【データ】
原題:Maria Full of Grace
監督:ジョシュア・マーストン
2004年/アメリカ・コロンビア/103分

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