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2011年5月24日 (火)

岩井克人・佐藤孝弘『IFRSに異議あり─国際会計基準の品質を問う』

岩井克人・佐藤孝弘『IFRSに異議あり─国際会計基準の品質を問う』(日本経済新聞出版社・日経プレミアシリーズ、2011年)

・日本でもIFRS(国際財務報告基準)の強制適用をするかどうか、2012年を目途に判断するといわれる中、「世界的潮流だから」という曖昧な理由で思考停止するのではなく、そもそもIFRSに内在する理論的欠陥が一般に認識されているのか?と問題提起。一律に強制適用するのではなく、各社それぞれの経営判断による選択適用として複数の会計基準を並立させ、基準間競争を促す方が望ましいという立場をとる。IFRSを導入すると会計観が根本的に変化するわけだが、その前後、二つの会計観の説明が本書の中心となる。
・従来、日本で採用されてきた収益費用アプローチは、当期純利益によって一年間の企業業績を把握、過去の業績に基づく客観的数値を示す。
・対して、IFRSが依拠する資産負債アプローチは、期首・期末における資産の増減によって把握された数値を利益とみなす(包括利益)→事業活動(本業)以外の金融活動等による資産の増減もこの「利益」の中に含まれて、事業活動の相違が区別されない。さらに、資産は「公正価値」、つまりその資産が将来生み出すキャッシュフローに基づいて算定される(割引現在価値)。ところで、「公正価値」の測定には市場価格が参照されるが、バブルのようにファンダメンタル価値から乖離する可能性が常にあるわけで、市場価格=客観的とは必ずしも言えない。また、現在価値の算定にあたっては経営者自身が適切と考える割引率を採用→主観的な判断がまじる。従って、実際に行われた取引に基づいて観察可能で検証可能な客観的事実を報告するのが会計であるとするならば、資産負債アプローチは客観性の点で欠陥をはらんでいると指摘される。
・「公正価値」がはらむ矛盾の最たる例として、「自己創設のれん」をオンバランス化する問題。
・IFRSに適合的な業種とそうでない業種とがある。有形固定資産の場合、仮想的市場モデルによって算定する必要→予測・見積り部分の割合が大きくなる。むしろ、金融資産の割合が多い業種(例えば、ヘッジファンド)にとって資産負債アプローチは親和的となる。これは金融業の割合が多いイギリスに有利で、イギリスがIFRSを推進していることと無関係ではない。会計基準にも政治的思惑が働いていることに留意すべき。
・IFRSは今後どうなるのか? 現場の実務的ニーズに合わせて例外規定が増やされていくと、会計基準としての一貫性がなくなる。逆にIFRSの思想を徹底化させると、実現不可能な全面的公正価値化に進んでしまう。

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