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2011年5月19日 (木)

G・J・アイケンベリー他『アメリカ外交の危機:21世紀のウィルソン主義』

G. John Ikenberry, Thomas J. Knock, Anne-Marie Slaughter, Tony Smith, The Crisis of American Foreign Policy: Wilsonianism in the Twenty-first Century, Princeton University Press, 2009

・第一次世界大戦においてウィルソンが掲げた外交指針については、アイケンベリーの序論での要約によると、①平和な秩序は民主主義国家の共同体によって確立される、②自由貿易の擁護、③国際法や国際的協力機構の設立によって平和や自由貿易を促進する、④community of power→集団的安全保障のシステム、⑤こうした理想は達成できるはずという進歩の観念、⑥アメリカが先導的な役割を果す。
・ウィルソン主義は一般的にはリベラルな国際主義と考えられている。しかし、第2章のトニー・スミスは、イラク戦争をもたらしたネオコンのブッシュ・ドクトリンはアメリカ主導による世界民主化構想を持っていた点でウィルソン主義に起源が求められるのではないか?と問題提起、これに対して他の論者が反駁するという構成。
・ウィルソン主義の後継者たるリベラル派は国際社会の政治的多元性を前提とした上でやむを得ない選択として人道的介入を求める。他方で、軍事介入という政治的選択をとると、民主化という「普遍的正義」の名の下で超大国アメリカ自身の国益に基づいた国際秩序再編をねらうネオコンと表面的には重なってしまう。動機はそれぞれ異なっているのだが(本書のリベラル派もウィルソンをネオコンなんかと一緒にしないでくれ!と怒っている)、いったん軍事介入という具体的局面に入ってしまうと両方の思惑が交錯し始め、このグレーゾーンを理論としてすっきり説明できなくなってしまう難しさがどうにもならないなあ、という印象は残る。このアポリアはいつまでたっても終わらないだろうな。

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