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2011年4月25日 (月)

許介麟《日本殖民統治的後遺症──台灣VS朝鮮》

許介麟《日本殖民統治的後遺症──台灣VS朝鮮》(台北:文英堂出版社、2011年)

 台湾および朝鮮半島における日本の植民地支配を比較検討するのが本書のテーマである。台湾の読者に向けて日本による朝鮮半島侵略の経緯を紹介し、台湾との比較を促す構成になっている。50ページそこそこのブックレットという分量を考えれば、概説的な内容としては要領よくまとまっている。

 日本の植民地支配をめぐって韓国でよく見受けられる批判のロジックを台湾に当てはめ、台湾の「媚日派」はいまだに過去の清算を済ませていない、その点で韓国に比べて「脱植民地化」が終わっていない、とするのが基本的な視点である。さらに李登輝はストックホルム症候群(立てこもり事件の人質が犯人に抱く同情を指す精神分析用語)だ、八田與一を顕彰するなんて「白痴化」した奴隷根性だ、などと感情的に激しい表現も出てきて、議論としてはバランスを失している印象を受けた。親日派批判そのものについては、それぞれ立場があるわけだから私が異議を唱える筋合いはない。ただ、「べき」論から糾弾するのではなく、そういったメンタリティーがどのような歴史的・構造的背景から生み出されたのかを汲み取っていく論理的手続きがしっかりしていなければ説得力は持たないだろう。具体的な論点をめぐって実証するというよりは歴史解釈の問題が前面に出されてくるので、読者の立場によっては異論が色々と出てくるかもしれない。

 私自身としては、日本統治に近代化という一定の側面があったとしても、そもそも植民地支配そのものがその地の人々の自尊心を著しく傷つける行為なのだからやはり肯定されてはならない。その点で日本人として常に自己批判の眼を持ってバランスをとるに越したことはない、と考えている。「親日」的とされる台湾でも本書のように日本に厳しい見解もあることはきちんと了解しておく必要はあるだろう。ただし、本書の場合には学術的論証というよりも政治主張的パンフレットという性格が感じられるので、その点は割り引いて読む方がいいかもしれない。もう1点、註を見ると朝鮮半島関連の文献は主に日本人研究者のものに依拠して、韓国人研究者による研究はほとんど参照されていないことも気にかかった。

 台湾人研究者による本書のようなテーマの議論としては、他に周婉窈《海行兮的年代──日本殖民統治末期臺灣史論集》(台北:允晨文化出版、2003年)所収の第3章〈従比較的観点看台湾與韓国的皇民化運動〉を以前に読んだことがある。試論的だと断りつつも、対象時期と論点を絞って比較検討を行っており、こちらの筆致の方がバランスがとれている。なお、「海行兮」とは「海ゆかば」のことで、この本は以前にこちらで取り上げた。

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