白戸圭一『日本人のためのアフリカ入門』
白戸圭一『日本人のためのアフリカ入門』(ちくま新書、2011年)
アフリカと一言でいっても、北アフリカはアラブ圏に入るし、サハラ以南にしても数多くの国々がひしめきあっており、単純に概括するにはあまりにも多様かつ複雑でありすぎる。全体を概観するのは新書レベルのボリュームでは難しい。最近はアフリカ関連の書籍も次々と出てきているので個々の問題についてはそれぞれ類書を参照する方がいいだろう(本書の巻末にもブックリストがある)。
むしろ本書がテーマとするのはこのアフリカへと投げかけられた日本人自身の眼差しのあり方そのものである。たとえ悪意はなくとも日本からは縁遠い地域だけに、実状とはかけ離れた偏見すら抱かれやすい問題点をひとつひとつ解きほぐす作業を通じてアフリカ認識を深める糸口を提示してくれる。著者が新聞社の特派員として取材した見聞はアフリカの今をヴィヴィッドに伝えるレポートになっているが、同時にアフリカをケーススタディとしたメディア・リテラシーの試みに見立てるともっと奥行きのある読み方ができるだろう。
とりあえず関心を持った論点を箇条書きにすると、
・「貧しくてかわいそうなアフリカ」イメージ→援助すべき、啓蒙すべき対象と位置付けるパターナリスティックな視点の問題点、これによってゆがめられたアフリカ認識。
・記者が記事を書いてもアフリカ事情は本社で取り上げてくれない→欧米(特にアメリカ)で話題になってようやく追随する形で日本のメディアも関心を持ち始めるというニュースの形成過程。
・「部族対立」という表現を使うと長年にわたる伝統的な抗争が政治的停滞をもたらしているようなイメージを読者に与えかねない→実際には利害配分等における政治的不公正が民族対立を煽っているという構造的問題が見落とされやすい。
・アフリカ開発会議(TICAD)の東京開催→アフリカ連合(AU)は対等な共同開催者と認めてくれないことに不満。
・国連安保理改革(常任理事国増加の提案)をめぐってAUの支持を取り付けたつもりだったところ、中国から切り崩しを受けたジンバブエのムガベ大統領の主導で失敗。中国のアフリカ進出をどう受け止めるか。
・いじめ、自殺、タイトな仕事スケジュールなど日本の問題→アフリカは比較対象のための別の視座ともなり得る。
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