石島紀之『雲南と近代中国──“周辺”の視点から』
石島紀之『雲南と近代中国──“周辺”の視点から』(青木書店、2004年)
・中央中心の歴史の見方では見落としてしまうもの→雲南という周辺部に視軸を置いて中国近代史を捉えなおしてみる試み。辺境とされる地域でも政治史全体の動向に関わるダイナミズムが見えてくるのが興味深い。
・山間盆地を単位として少数民族や漢族が雑居する地域。
・フビライが大理国を滅ぼして雲南行省を設置。明代に漢族系が大量に移民。清代に社会経済的変動、改土帰流政策→土司勢力の縮小。19世紀に回民起義→独立政権も成立。しかし、少数民族の漢族化傾向あり。
・イギリス・フランスの勢力進出→外国商品の流入。1870年代初め、昆明にフランス人技術者による官営軍需工場→雲南における近代工業化の始まり。
・対外的危機と清朝地方官僚の腐敗→東京への留学青年(1906年に東京で『雲南雑誌』刊行)と新式軍隊が反清革命の担い手。とりわけ、雲南講武堂の教官では留学経験者や革命支持者が多数派→蔡鍔(かつて梁啓超や譚嗣同に学び、日本へも留学)が中心となる。彼は強力な中央政府を支持する国家主義者だが、他方で省内には地方主義や他省との対立意識も胚胎していた。蔡鍔は第二革命では袁世凱を支持したが、袁が帝政運動を始めると反発→蔡鍔、梁啓超、唐継尭(日本留学経験あり)らは雲南を反袁世凱の護国戦争の基地とした。蔡鍔は1916年に病死→唐が雲南を支配(1913~27年)。
・1910年、滇越鉄道の開通→対外交易の拡大。東南アジアとの経済的交流が活発になる一方、広東商人が貿易の担い手であったため華南商業圏に組み込まれた。
・貧困、土地問題。漢族と少数民族、また少数民族同士の大きな経済的・社会的格差。
・キリスト教の普及。
・新文化運動の波及→五・四運動、日貨ボイコットが昆明で盛り上がる。
・国民革命と連動する形で雲南でも政変→龍雲(イ族出身)が台頭。蒋介石の国民政府を支持しつつも、実質的には半独立状態。1938年に汪兆銘がハノイへ脱出、日本との「和平」を唱えた際に途中で昆明に寄り、龍雲と会談。彼は曖昧な態度をとっていたが、最終的に蒋介石を支持、ただし関係は微妙なものとなる。
・抗日戦争の基地。日本軍の空襲。昆明には西南連合大学(1938~46年)。
・戦後、ベトナム北部の日本軍の武装解除のため、蒋介石の命令で雲南軍(龍雲の部下の慮漢が指揮)を派遣→雲南の主力部隊がいなくなったスキをついて蒋介石側が龍雲政権崩壊の策動→龍雲はいったん失脚したが、混乱の中で慮漢が政権を樹立。二人とも最終的には共産党側につく。
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