食糧危機問題について何冊か読みながらメモ
食糧危機問題について何冊か読みながらメモ。近年の食糧価格高騰というトレンドについて周期的・短期的なものと捉えるのか、それとも大きなパラダイムシフトと考えるのか、あるいは市場構造の問題と捉えるのか、供給の限界として考えるのかによって今後の見通しや対応策も大きく変わってくる。ただし、どちらの立場に立つにせよ、日本の食料自給率の上昇には限界があるので、食糧安全保障という観点から、海外に長期的・安定的な食糧供給元を確保する必要があるという認識ではおおむね一致している様子。
柴田明夫『食糧争奪──日本の食が世界から取り残される日』(日本経済新聞出版社、2007年)、『飢餓国家ニッポン──食料自給率40%で生き残れるのか』(角川SSC新書、2008年)
・食糧争奪が見込まれる背景:世界的な人口増加。途上国の経済発展→食生活の変化、食の高級化。異常気象、凶作、不作、水不足。こうした背景から食糧供給の限界→食糧は石油などと同様の枯渇性資源としての性格を帯びるようになった。
・バイオ燃料(トウモロコシを原料にバイオエタノール)も食糧争奪の要因。
・政治的な思惑から輸入促進、輸出抑制などのコントロール→武器としての食糧。
・食糧価格における投機マネー→食糧争奪の趨勢を見越して表われた動きなのだから、マネーゲームとして批判するよりも、アラームと捉えるべき。
・食肉消費量の増大。食肉にはさらに数倍の穀物が必要→穀物需要の飛躍的増大。西洋型(肉食の比重大きい)か、東洋型(魚介類の比重大きい)か。レスター・ブラウン「誰が中国を養うのか」。
・工業化・都市化→水資源不足、地下水位低下、水質汚濁、都市型洪水、ヒートアイランド。
・水・土地→農業と工業とで奪い合い。
・作付面積、単位面積当たり収量を図る→理屈では良いプランであっても、現実には様々な摩擦が引き起こされる可能性。
・日本農政における減反政策の矛盾。
・現在の食糧価格変動は周期的なものではなく、パラダイムシフトと捉えるべき。
・トレンドの先を見据えて食糧安全保障の観点から大幅な政策転換が必要。減反政策(縮小再生産)ではなく、拡大再生産へ。食料自給率を上げる(ただし、大幅には無理→心理的な意味も込めて51%を目指そう)。輸入元の多角化による安定的・長期的確保。
・世界の貧困層を考慮に入れて対策→成長と環境、成長と貧困を、トレードオフではなく同時並行で追求。
・現在のコモディティー価格上昇は企業による多少の合理化努力ではカバーできない→原料価格上昇を前提に商品の値上げも容認すべき。
・「くっつく農業」と「離れる農業」(交通の発達→物理的距離、加工食品→付加価値面での格差、貯蔵機能→生産から消費までの時間がのびた)。
・アジア諸国との連携→農業開発、環境保全、効率的な食料流通。
他に、浜田和幸『食糧争奪戦争』(学研新書、2009年)、茅野信行『食糧格差社会──始まった「争奪戦」と爆食する世界』(ビジネス社、2009年)も通読。
ジャン=イヴ・カルファンタン(林昌宏訳)『世界食糧ショック──黒いシナリオと緑のシナリオ』(NTT出版、2009年)は食糧危機を放置した場合の黒いシナリオと、国際社会が協同で対応した緑のシナリオと、二つのシミュレーションを示す。最貧国支援、環境への配慮、遺伝子組み換え食品の活用、食糧自給にこだわるのではなく自由貿易の推進などを主張する。
鈴木宣弘・木下順子『食料を読む』(日経文庫、2010年)は食料価格高騰の問題を市場構造の問題として捉え、悲観的な食糧危機の見通しには批判的なスタンス。需要供給の価格メカニズムで価格動向を考える視点がないと批判。バイオ燃料原料については、農産物の過剰在庫処理という目的から始まったものと指摘。欧米諸国の自給率・輸出力の高さは競争力以上に手厚い戦略的支援があると指摘。
川島博之監修/日本貿易会「日本の食料戦略と商社」特別研究会『日本の食料戦略と商社』(東洋経済新報社、2009年)は、食糧価格高騰の市場構造的背景を解説した上で、食糧供給において商社各社が果たしている役割をアピール。執筆者は各社の担当者。
NHK食料危機取材班『ランドラッシュ──激化する世界農地争奪戦』(新潮社、2010年)は以前を以前にこちらで取り上げた。
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