園田茂人編『中国社会はどこへ行くか──中国人社会学者の発言』、ふるまいよしこ『中国新声代』
園田茂人編『中国社会はどこへ行くか──中国人社会学者の発言』(岩波書店、2008年)
・中国人社会学者7人へのインタビューを通して現代中国社会が抱えている問題点をそれぞれの調査対象に即して浮かび上がらせていく構成。
・李春玲(中国社会科学院社会学研究所研究員):マルクス主義的な「階級」概念がいまだに根強い中、社会学的な「階層」概念で分析。教育格差による不平等拡大、都市中間層のフラストレーションなどを指摘。
・陳光金(中国社会科学院社会学研究所副所長):共産党に入党しない私営企業家に注目。「ニューリッチ」への「二重の評価」(羨望の対象であると同時に、不正をしていると批判)。
・王春光(中国社会科学院社会学研究所研究員):農民工の社会的地位の低さや階層的アイデンティティー→新しい労働者階級を形成していると指摘。受け容れる大都市側の消極的姿勢、戸籍制度の問題。
・関信平(南開大学社会工作与社会政策系教授):改革開放以降、労働市場の成立→セーフティーネットの問題。社会福祉を担うNGOの位置づけ。社会保障は政府の責任とする意識が中国では強い。
・劉能(北京大学社会学系副教授):ライフスタイル調査。インターネットの普及による世代間ギャップ。公共空間における社会的スキルの欠如。サイバー・スペースの中に根強く残るポスト冷戦型心性。不満を表出するチャネルとしての集合行動。
・康暁光(中国人民大学農業与農村発展学院教授):伝統回帰の趨勢を指摘。マルクス主義理念の空疎化→共産党も統治正統性獲得のため宗教としての儒教を重視すべきと主張。
・李培林(中国社会科学院社会学研究所所長):客観的状況と主観的意味づけとのギャップ。政府による資源配分の一方、「見えざる手」としての「社会」の領域が曖昧。海外と比較して社会は不平等だという意識が強い→「不平等の制度化」(不平等を生み出すゲームのルールに対する合意形成)の不在、言い換えると公正なルールを作り上げなければならない。
ふるまいよしこ『中国新声代(しんしょんだい)』(集広舎、2010年)
・単に中国というよりも広く華語圏(従って香港、台湾を含む)の様々なジャンルで活躍する18人へのインタビューを集めている。それぞれの立場から変貌する中国社会をどのように見ているのかを聞き出し、彼らの語りを切り口にして複眼的に中国を見ていく糸口となり得るところが興味深い。
・登場するのは、王小峰(ブロガー)、李銀河(性問題で積極的に発言する社会学者)、郎咸平(経済学者、何となく大前研一的なタイプだな)、連岳(ブロガー)、徐静蕾(女優)、芮成鋼(テレビキャスター)、袁偉時(歴史学者)、孫大午(農村企業経営者)、梁文道(コラムニスト)、邱震海(国際問題研究家)、曹景行(時事評論家)、尊子(風刺漫画家)、梁家傑(民主党派から香港特別行政区行政長官選挙に立候補)、龍応台(台湾出身の作家)、林清發(北京で活躍する台湾出身企業家)、賈樟柯(映画監督)、胡戈(ウェブビデオクリエイター)、欧寧(文化プロデューサー)。
・読む人の関心に応じてどこに興味を感ずるかはそれぞれだろうが、私としては、歴史学者・袁偉時と作家・龍応台の発言に興味を引かれた(二人ともいわゆる『氷点』事件に関わっている)。「正史」すなわち統治者側から提示される公定史観だけでなく「野史」の必要性。「正しい」歴史観への疑問から探究を重ねた結果、「野史」にならざるを得なくなった袁偉時、大陸に比べて台湾の「野史」の豊かさ、さらには混乱をも語る龍応台。いずれにせよ、歴史の語りを吟味・識別する判断力の広がりが必要という指摘に収斂してくる。それから、梁文道のように現体制に批判の眼差しを向けつつ現実的な判断も示すバランスのとれた姿勢にも興味。
| 固定リンク
「中国」カテゴリの記事
- 【七日間ブックカバー・チャレンジ:七日目】 中薗英助『夜よ シンバルをうち鳴らせ』(2020.05.28)
- 王明珂《華夏邊緣:歷史記憶與族群認同》(2016.03.20)
- 野嶋剛『ラスト・バタリオン──蒋介石と日本軍人たち』(2014.06.02)
- 楊海英『植民地としてのモンゴル──中国の官制ナショナリズムと革命思想』(2013.07.05)
- 広中一成『ニセチャイナ──中国傀儡政権 満洲・蒙疆・冀東・臨時・維新・南京』(2013.07.03)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント