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2011年3月 2日 (水)

山形孝夫『聖母マリア崇拝の謎──「見えない宗教」の人類学』『聖書の起源』

 プロテスタントはもちろんのこと、カトリック教会において聖母マリア崇拝・信仰というのは厳密には存在しないのだという。一神教的な教義体系からすればたとえ「神の母」ではあっても崇拝対象とは認めがたいからだ。しかしながら、民衆レベルでは聖母マリアは篤い崇敬対象となっており、エチオピア正教会などはむしろ聖母マリア信仰の方が中心となっているとも言われる。山形孝夫『聖母マリア崇拝の謎──「見えない宗教」の人類学』(河出書房新社、2010年)は、はるか古代の大地母神からルルドの奇跡などマリア出現現象まで、キリスト教の表の顔とは異なる「見えない宗教」というレベルにおける精神史的流れを検討し、一神教的な父性原理と対比されるアニミスティックでスピリチュアルな母なるものへの崇拝の反復的な表われと指摘、さらには父なる神の男性優位という不動の社会秩序を維持するため張り巡らされた数々の文化装置としてカトリック教会のあり方をうかがう視点が示される。

 山形孝夫『聖書の起源』(ちくま学芸文庫、2010年)はすでに定評のある聖書論であろう。伝承文学としての性格を持つ聖書の背景に古代神話の系譜を見出し、新約の福音書については共同体における信仰告白の結晶として把握される。イエスはどのような人物であったのかを解明するのは極めて困難であり、かつての聖書学は聖書説話に見られる非合理的要素をすべて排除することで「客観的」な史的事実を確定しようと試みたが、そうした努力はことごとく失敗したと言っていい。本書はむしろ聖書伝説を形成してきた人々の動機の方に着目、いったん解体された聖書伝説にもう一度息を吹き込んで聖書の成立過程をヴィヴィッドに提示してくれる。

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