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2011年3月 8日 (火)

曽野綾子編著『聖パウロの世界をゆく』

曽野綾子編著『聖パウロの世界をゆく』(講談社、1985年)

 古代ローマの属州キリキアの州都タルソス(現在はトルコのタルスス)に生まれたユダヤ人パウロは当初キリスト教を迫害していたが、いわゆるダマスコの回心以降、熱心なキリスト教徒として布教に専心、キリスト教拡大の一番の立役者となった。本書は、彼が伝道の旅路で歩んだ地中海沿岸の遺跡を訪ねて回る紀行である。カトリック信徒たる曽野綾子が中心となり、新約聖書学の堀田雄康、旧約聖書学の石田友雄、オリエント考古学の小川英雄、エジプト考古学の吉村作治の討論によってパウロが見たであろう光景とその時代背景とを浮かび上がらせていく。

 団長たる曽野綾子の文章には信仰告白的な色彩が濃いが、続く討論記録では信徒ではない立場からのアカデミックな指摘がぶつけられる。例えば、曽野は古代ローマ時代における都市遺構からうかがえる繁栄ぶりについて都市文化は立派であっても精神的虚しさをパウロは見ていたのではないかと言う。これに対して小川は歴史学・考古学の立場から異議を唱え、信徒である古代キリスト教史学者がキリスト教の正しさを立証するという観点から古代文明の豊かさを後代の後智恵でことさらにくさす傾向があるが学問的にはあまり良くないと指摘する。両者の立場の相違が建設的な議論となっているところが面白い。

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