【映画】「再生の朝に──ある裁判官の選択」
「再生の朝に──ある裁判官の選択」
裁判官のティエンは交通事故で娘を失った。犯人は捕まっておらず、彼の判決に恨みを抱いた者による仕業ではないかとささやかれている。事故以来妻とはほとんど口をきいておらず、気力をなくして機械的に淡々と事務をこなすだけの毎日。娘が通っていた中学校を見に行くと慶祝香港復帰の垂れ幕があるので、1997年を時代背景としたストーリーであることが分かる。
ティエンが担当した裁判で問題が持ち上がった。自動車2台の窃盗は旧刑法では死刑となる。ところが、これは貨幣価値が格段に低かった時代の基準であって現状での適用には無理があるし、間もなく施行される新刑法の基準では死刑はあり得ない。ちょうど司法制度の転換期の最中、微妙な判断が求められている。官僚組織の一員として一番無難な答えは、これまでのしきたりに従うこと。ことなかれ主義のティエンは旧刑法の基準を機械的に適用して死刑の判決を下すことによって難しい判断を回避しようとした。しかし、家庭の問題で懊悩する中、自身の判断が果して正しかったのか、考え直し始める。
法と現状との乖離、司法判断の硬直化、ワイロ・人脈などで裁判所に圧力がかかる可能性、死刑の多さ、死刑囚の臓器売買──現代中国における司法をめぐる非常にナーバスな問題の様々なポイントに目配りされている。裁判官個人の良心に期待するなど微温的な描き方という気もするが、中国国内で合法的に製作した映画としてはこれがギリギリのラインだったのだろうという苦労はうかがえる。死刑判決を受けた者の獄中生活は描かれるものの、彼がなぜ窃盗をするに至ったのかという背景には触れられていない。そこを描き始めると芋づる式に様々な社会問題がさらに現われてくるはずだ。彼の生活史的背景が全く描かれていないことを裏返すと、そこは観客自身の考えで読み込んで欲しいということであろうか。
【データ】
原題:透析JUDGE
監督:劉杰
2009年/中国/98分
(2011年3月6日、渋谷、シアター・イメージフォーラムにて)
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