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2011年3月31日 (木)

白川静『字書を作る』

白川静『字書を作る』(平凡社ライブラリー、2011年)

 白川静が畢生の研究集大成として成し遂げた字書三部作『字統』『字訓』『字通』、それぞれで編集方針を明示するため序文として書かれた文章が本書に収録されている。凡例や字書の使い方を示すというレベルではない。辞典・字書には、それを編纂する上で確固たる思想がなければならないと白川は言っており、序文とは言ってもそれぞれが堂々たる論文になっている。

 漢字の形成過程には古代の象形文字以来豊かな精神史的ドラマが展開されており、『字統』では甲骨金文の研究を踏まえて古代文字に込められた精神世界の解明が意図されている。漢字は日本に移植されてはるか昔から使い続けている以上、日本人にとってもやはり国字、日本人自身の文字である。『字訓』ではそうした考え方から国語の問題として漢字を捉え、中国生まれの漢字と日本語とが切り結ぶ緊張感に日本文化を豊かにしてきた契機を見いだし、それを見つめなおす糸口を求めようとしている。『字統』『字訓』双方の研究を基に一般辞書として編纂された『字通』は、漢字の用法を広く見渡すことで中国の古典が日本文化の中で占めている意味を提起し、さらにはそうした漢字のあり方を通して“東洋”的なものを改めて見直していこうという白川自身の若い頃からの情熱が込められているのだという。

 白川の学問には古代以来の漢字形成過程からうかがえる精神史的探求を通して“東洋”なるものを見つめなおしてみようという問題意識が根底に伏流しており、それは言語学や古代研究の枠には収まらない。“東洋”への回帰と言っても、白川の緻密に実証的な研究姿勢からうかがわれるように決してファナティックなものではないわけで、私としてはそうした彼の動機の部分に思想史的な関心がかき立てられてくる。

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