寒川旭『地震考古学──遺跡が語る地震の歴史』『地震の日本史──大地は何を語るのか』『秀吉を襲った大地震──地震考古学で戦国史を読む』
専門の研究者でも地下のメカニズムにはいまだによく分かっていないことが多いと言われる。地震にしても、あるいは地震によって引起される津波にしても、経験則によって一定の発生周期や想定される最大限の規模がつかみ取れれば良いが、なかなか難しい。自然科学は基本的にデータ検証によって一定の法則性を導き出すという手法をとるが、我々の経験的実感レベルと地球活動レベルのタイムスパンとの間には極めて大きなギャップがあり、経験レベルの想定を超えた事態が必ず起こってしまう。日本で明治期に本格的な地震観測が始まってからまだ150年程度しか経っていない。しかしながら、例えば三陸沿岸部や仙台平野にはかつて海岸から数キロメートル離れたところまで津波が押し寄せた痕跡があるという。せめて近代以前の歴史時代、先史時代までさかのぼってデータ検証の幅を広げることはできる。その点で地震考古学というのは注目すべき分野であろう。
寒川旭(さんがわ あきら)『地震考古学──遺跡が語る地震の歴史』(中公新書、1992年)は地震学と考古学とを結び付けて新分野を開拓した経緯を示す。古墳に見られる崩壊による変形について活断層の知見を動員することで説明できることに気付いたのがきっかけだという。液状化現象、地割れ、地すべりなど地盤災害の痕跡に着目すれば、その遺跡の層位的前後関係から地震の起こった年代を判定できるし、文献記録のある時代であれば具体的な日時まで特定できる。逆に、その地震の痕跡を基に他の遺跡の年代特定も可能である。そうしたデータを集積すれば遺跡もまたいわば考古学的な地震計としての役割を果たしてくれるわけで、大地震の発生周期もある程度まで把握することができる。
『地震の日本史──大地は何を語るのか』(中公新書、2007年)、『秀吉を襲った大地震──地震考古学で戦国史を読む』(平凡社新書、2010年)ではこうした地震史料と文献史料とをつき合わせながら日本史が描き出される。地震という着眼点を通すと歴史的エピソードも独特なリアリティーをもって見えてくるところが興味深い。
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