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2011年3月23日 (水)

北原糸子『地震の社会史──安政大地震と民衆』

北原糸子『地震の社会史──安政大地震と民衆』(講談社学術文庫、2000年)

 1855年、世界でも有数の人口過密都市であった江戸を直撃した安政大地震。多数の圧死者、焼死者を出した惨禍である一方で、この頃のかわら版に描かれた地震鯰絵にみなぎる活気、このギャップは一体何であろうかという問題意識から本書は始まる。被害の実相、安政大地震を目撃した知識人たち、江戸期における情報流通手段としてのかわら版とその担い手たちの背景、幕府・富裕市民層による救済活動などについて史料を踏まえて分析、震災というインパクトを通して見えてくる当時の社会的様相が描かれる。

 この大地震を下級武士や知識人たちが凶兆と考えたのに対し、都市の一般民衆が吉兆ととみなして震災被害という非日常を通した世直りへの期待感を示したという相違が指摘される。当時の身分制社会における抑圧からの解放感を彼らは感じ取り、これまで凝縮されていた民衆的エネルギーがこの地震鯰絵への熱狂として表出したのだという。幕府や富裕層による施しもこうした社会的構造における一つの儀礼であったと捉えられる。

 当たり前の話ではあるが、地震はそれによってインパクトを受ける社会があってはじめて災害となるのであり、その社会関係は時代ごとに独特なロジックによって組み立てられている。安政大地震が起こった当時と現代との時代的相違や人間行動の共通点を比較しながら読み進めると面白いだろう。

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