佐々木信夫『都知事──権力と都政』
佐々木信夫『都知事──権力と都政』(中公新書、2011年)
経済力ではカナダを上回って優に一国レベルの規模を持つ東京、都知事には一千万有権者から直接選出されるという大きな存在感がある。この都知事を軸にしながら東京都政の仕組みと問題点を概観。都知事、都議会、都庁官僚、政策決定プロセス、財政、都と特別区との関係、石原都政の総括などの項目に分けて叙述されている。都議会が政策論争の場として有効に機能していない、2000年の地方分権一括法で機関委任事務が廃止されたにもかかわらず独自の政策運営がされていない、財政危機といった論点に関心を持った。
東京都の財源は法人二税(法人事業税、法人都民税)にほとんど依存しているが、これは景気の影響を受けやすく、財源がなかなか安定しない問題に歴代都知事はなやまされてきた。高度経済成長のパイを受けて福祉政策の充実を図った美濃部都政だが、石油ショックで財政悪化、財源確保のため法人二税の超過課税に踏み切ったほか、債権を発行しようとしたところ政府(自民党)からの嫌がらせで認可権をたてにつぶされた→自治体の財政自主権の侵害→起債訴訟。続く鈴木都政は財政立て直しで評価が高いが、美濃部都政の遺産としての法人二税超過課税も実は役立っていたらしい。せっかく財源立て直しに成功した鈴木都政だが、ハコモノ行政に走り、再び財政悪化。石原都政の銀行への外形標準課税は、美濃部都政における法人二税超過課税と同様の試みだったと言えるのも興味深い。
東京都は1943年、戦時下の首都防衛、戦費捻出のため二重行政解消という理由で東京府と東京市とが合併して成立、当初は東京都長官が置かれた。戦後初代知事の安井誠一郎は内務官僚出身の実務家、戦後混乱期の復興にあたる。二代目・東龍太郎はIOC委員で、東京オリンピック誘致のため都知事に就任、実務は鈴木俊一が取り仕切った。三代目は革新都政の美濃部亮吉、四代目の鈴木俊一、五代目の青島幸男、六代目の石原慎太郎と続く。なお、東京都政については御厨貴『東京──首都は国家を超えられるか』(読売新聞社、1996年)も政治史的な観点から論じており、歴代都知事について象徴性と実務性という観点で跡付けているのが興味深い。
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