河原功『翻弄された台湾文学──検閲と抵抗の系譜』
河原功『翻弄された台湾文学──検閲と抵抗の系譜』(研文出版、2009年)
・長年台湾文学研究に従事してきた著者の論文集。日本統治期に日本語で書かれた台湾人・日本人の作品を対象とし、視点は主に総督府権力による取締りとのせめぎ合いに置かれている。
・第Ⅰ章「台湾人作家の抵抗」では左派系の台湾人作家による作品が対象。「新聞配達夫」で有名になったプロレタリア作家・楊逵について三本の論文。呉新栄の左翼意識を蔵書から考察。『胡志明』(戦後日本で刊行されたときは『アジアの孤児』)をもとに呉濁流の抵抗精神を考察。
・第Ⅱ章「日本人作家の視点」では、台湾を題材に作品を書いた日本人作家を取り上げる。中村古峡と佐藤春夫(「殖民地の旅」「魔鳥」「霧社」)の原住民認識を考察。台湾在地の日本人作家・浜田隼雄の作品の変化と彼自身がそれを戦後どのように捉えなおしたか。他に淡水を訪れた作家たちとして佐藤、中村地平、真杉静枝、豊島与志雄、丹羽文雄、広津和郎。
・第Ⅲ章「知られざる検閲」は総督府による検閲体制について調査した論考が集められており、資料的に大切だろう。左翼系が対象となるのは当然だが、植民地統治批判に関わるものにはより敏感で、日本内地で読めるものでも台湾では発禁処分となったケースも多い(例えば、矢内原忠雄『日本帝国主義下の台湾』や佐藤春夫「殖民地の旅」など)。また、当時の台湾の雑誌など出版状況についての紹介も参考になる。台湾文学史では『文芸台湾』『台湾文学』にはよく言及されるが、他に大衆誌として普及していた『台湾芸術』(黄宗葵、江肖梅)に興味。ただし、現存数が少なく、バックナンバーの大半が不明らしい。台湾における演劇運動についての論考もある。
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