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2011年2月16日 (水)

ダナ・H・アリン、スティーヴン・サイモン『第六の危機:イラン、イスラエル、アメリカ、そして戦争の噂』

Dana H. Allin and Steven Simon, The Sixth Crisis: Iran, Israel, America and the Rumors of War, Oxford University Press, 2010

 第二次世界大戦後、中東においてアメリカが何らかの形で関与した紛争が五つある。すなわち、スエズ危機、イスラエルと周辺諸国との武力紛争(第三次及び第四次中東戦争)、イラン・イスラム革命、湾岸戦争、ブッシュ政権のイラク戦争。そして続く第六の危機が仮にあるとしたら核開発疑惑のあるイランに対してイスラエルが攻撃を仕掛けたときで、その時にはアメリカも否応なく巻き込まれることになるだろう、そうした事態は何としても防がねばならないというのが本書の問題意識。これを踏まえて、中東情勢が潜在的にはらむ危機の複雑な背景、具体的にはイランの核開発問題、パレスチナ問題、イラン革命に脅威を感じたアラブ諸国の権威主義体制や王政とアメリカとの結び付き、アメリカ自身の問題(例えば、イスラエル・ロビーと結び付いたキリスト教右派の存在)などが検証される。分析というよりも政論的な筆致。要するに、駄々をこねるイスラエルを抑えながら、つっかかってくるイランとどのように向き合うのかがアメリカの対中東政策の中心というわけか。

 アメリカのオバマ大統領はイスラム世界との関係改善を図りたいという意図によるスピーチをした。しかしながら、ブッシュ前大統領のイラク攻撃ばかりでなく、長年行なわれた対中東政策の積み重ねによって反米のナラティヴがすでに出来上がってしまっており、それを解きほぐすのは至難の業だ。とりわけイランとの交渉が重要であるが、アメリカはハタミ政権のときに関係改善のチャンスをみすみす逃がしてしまったし、現在のアフマディネジャド政権は聞く耳など持たないだろう。情勢を見れば見るほど解決策の見当たらないジレンマにぶつかってしまうが、本書はむしろ時間稼ぎをしながら情勢の変化を見極めることが必要だとして、それを目的としたイランに対する封じ込め政策を提起、旧ソ連に対する政策が参照できると指摘する。アフマディネジャドのアジテーションは強烈ではあるが、他方でイラン政治は多元的な性質を持ち、2009年の大統領選挙での不正をきっかけに改革派の勢いがあることに本書は注意を促す。下手に刺激して情勢を悪化させるよりは、時間稼ぎをしながら潮目が変わるのを待つのも、自覚的に戦略として採用するなら一つの考え方ではあるのだろう。

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