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2011年1月24日 (月)

尤哈尼•伊斯卡卡夫特(Yohani Isqaqavut)《原住民族覺醒與復振》

尤哈尼•伊斯卡卡夫特(Yohani Isqaqavut)《原住民族覺醒與復振》(台北:前衛出版社、2002年)

 先日、台北の順益台湾原住民族博物館へ行ったときにミュージアムショップで購入した本。経歴を見ると、著者はブヌン(布農)族出身の牧師で、台湾原住民の研究や権利向上を求める社会運動に従事、国連先住民会議にも出席、民進党の陳水扁政権では行政院原住民族委員会主任委員(閣僚)や総統府国策顧問なども歴任している。

 台湾の原住民族の人口はすべて合わせて全体の2%程度に過ぎず、その他の漢族系から歴史的に圧倒され、また差別を受け、日本統治期及び国民党政権期それぞれの「国語」政策等によって同化の対象としてアイデンティティの危機にさらされてきた。その後、民主化運動の進展と歩調を合わせるように1980年代から原住民族の社会的権利やアイデンティティの回復を求める動きが活発化、1996年には行政院に原住民族委員会が設置され、原住民族の権利保護は公的に進められることになった。

 台湾の原住民が抱えるアイデンティティの危機、漢族系に比べて低い経済・教育・社会福祉・生活環境など様々な問題点について網羅的に記されている。個々の論点について見開き2ページにまとめたエッセイ的項目を並べる形式なので全体像を見通しやすく、現在の台湾原住民を取り巻く社会問題を概観する取っ掛かりとして参考になる。

 本書に様々な問題が並べられていることからうかがえるように、台湾原住民出身者の社会的・経済的地位はまだまだ十分ではない。同時に関心を引くのは、原住民をはじめ複数のアイデンティティを認める多文化主義の考え方が公的にも漢族系を含めた一般世論としても台湾社会では定着しつつあるらしいことだ。この点では台湾は世界的に見て先進的なのではないかという印象を持っている。最終章では、様々な国際交流の中、中国側から「我々は同じ中国人だ、中国の少数民族政策は台湾より優れているぞ」と言われることを引き合いに出し疑問符をつける。その上で、「台湾是台湾、中国是中国」という一文で結ぶあたり、ナショナル・アイデンティティとしての台湾、エスニック・アイデンティティとしての各原住民という意識構造がうかがえる。著者は民進党支持者であるし、巻末に王育徳全集の広告があるから刊行元も台湾独立派のようだ。

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