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2011年1月15日 (土)

【映画】「海炭市叙景」

「海炭市叙景」

 佐藤泰志という作家のことを私は知らなかったが、不遇のうちに二十年ほど前に自殺してしまった人で、根強いファンもいるそうだ。未完になった彼の連作短編集をもとにしたオムニバス的な群像劇。海炭市とは彼の郷里・函館をイメージした架空の都市である。函館を観光地イメージとは違う角度で撮ってみるというのもこの企画の趣旨の一つらしい。

 造船所の閉鎖に伴い解雇された青年とその妹が一緒に初日の出を見に行くシーンから始まる。再開発で立ち退きを迫られている猫好きの老婆。水商売に出る妻への疑惑を募らせるプラネタリウムの寡黙な映写技師。ガス店経営の二代目社長は再婚したばかりだが浮気をしており、妻は腹いせに彼の息子をいじめている。仕事で郷里に戻ってきたが、父との折り合いが悪くて実家には戻らない男性。

 それぞれ、人生の歯車がどこかずれてしまった不全感を抱えながら戸惑う人々の姿が描かれていく。雪も降り積もる年の瀬、クリスマスから新年に向けての華やぎには縁遠い彼らのたたずまいは、寒々とした気候の中でいっそう際だつ。ただし、やるせないという印象だけを受けるわけではない。どうにもならないみじめさの中でもがくにしても、それでもやはりひたむきにもがくしかない。ストーリーそのものに激しさはなくとも、心中の葛藤は表情に自然と表れる。冷たさで張りつめた空気を如実に伝えるような映像には同時に緊張感があって、それが人々の心象風景と重なり合って見えてくるとき、パセティックな感傷も静かに浮かび上がってくる。それがまた哀しくも美しく感じられてくる。

【データ】
監督:熊切和嘉
原作:佐藤泰志
音楽:ジム・オルーク
出演:谷村美月、竹原ピストル、中里あき、小林薫、南果歩、加瀬亮、三浦誠己、山中崇、ほか
2010年/152分
(2011年1月15日、渋谷、ユーロスペースにて)

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「海炭市叙景」★★★☆ 谷村美月、加瀬 亮、 小林 薫 、南 果歩、竹原ピストル、三浦誠己、 山中 崇出演 熊切和嘉 監督、152分、 2010年 日本 | 配給:[スローラーナー] (原題:Sketches of Kaitan City )                     →  ★映画のブログ★                      どんなブログが人気なのか知りたい← この映画は昨年の映画祭のコンペティション部門として、 一般公開に先駆けて見た、 映画を見終えたのは確... [続きを読む]

受信: 2011年1月29日 (土) 10時00分

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○熊切和嘉[監督]『海炭市叙景』(2010年)を観てきた。 先週末に熊切和嘉[監 [続きを読む]

受信: 2011年2月28日 (月) 02時34分

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