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2011年1月24日 (月)

【映画】「ヤコブへの手紙」

「ヤコブへの手紙」

 終身刑で服役していたレイラは恩赦を受け、老牧師ヤコブのもとに身を寄せることになった。毎日届けられる人生相談の手紙を生きがいとするヤコブ、目の見えない彼に変わって手紙を読み上げ、返信を口述筆記するのが彼女の役目だ。しかし、自暴自棄になっているレイラは心を閉ざしたまま。

 ヤコブへ手紙の届かない日が続いた。自分は必要とされていていないんだと落ち込むヤコブ、そんな彼に対して「人生相談だって、結局、あなた自身のためでしょ」とレイラは容赦なく厳しい言葉を浴びせる。彼女は出て行こうとしたが、行き場がない。そんな彼女を見かけたヤコブは「残ってくれたのかい、ありがとう」と変わらずにやさしい。ある日、レイラは郵便配達を呼び、ヤコブの前で手紙を読むふりをするのだが、彼にはお見通し。やがて彼女は、自分自身の「手紙」を語り始める。

 世間から冷たい視線を浴びる元受刑者と、すたれた教会近くに住む盲目の老人。孤独な二人の心情的交流が丁寧に描かれる。ヤコブの純粋な善意、ただしそれも聖人のように美化されるわけではなく、だからこそ二人の交流にある種のリアルさが感じられる。見捨てられたと思い込む彼の不安は、一面において達観しきれないかすかなエゴイズムとも言えるし(レイラは最初そう考えた)、承認欲求が満たされない老境の葛藤が表現されているとも言える。ヤコブのもとに届く手紙には、例えば家庭内暴力に苦しむなど、身近に人間はいても心を許せる人のいない、そうした孤独な人たちからの切実な声がしたためられていた。現代社会に特徴的な孤独、その各人各様のあり方がこの映画の題材になっている。

 取り立てて起伏のあるストーリーではない。だが、教会と牧師館を囲む木立や野原、風景が実に美しく、その中で二人の心情的変化を自ずと浮かび上がらせていく描写は、観ているこちらの心を静かに揺さぶってくる。

【データ】
原題:POSTIA PAPPI JAAKOBILLE
監督:クラウス・ハロ
原案・脚本:ヤーナ・マッコネン
2009年/フィンランド/75分
(2011年1月21日、銀座テアトルシネマにて)

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