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2011年1月 8日 (土)

田中伸尚『大逆事件──死と生の群像』

田中伸尚『大逆事件──死と生の群像』(岩波書店、2010年)

 血気盛んな青年・宮下太吉が信州の山奥で試爆させた一発の爆弾をきっかけに、彼の関係から芋づる式に逮捕された1910年の大逆事件。翌年1月には判決が下され、死刑の確定した12人はただちに処刑された。言葉は悪いが所詮児戯に類した“革命ごっこ”に過ぎず、幸徳秋水や森近運平たちは同調などしていなかった。それでも、無政府主義思想の広がりに神経をとがらせていた司法当局はこの出来事を口実に明治天皇暗殺の共同謀議として事件をフレームアップした。

 無政府主義の思想としての質についてはとりあえず私は問わない。ロジックの組み立てそのものは稚拙ではあっても、それはたいした問題ではなく、むしろ彼らをこうした思想へと駆り立てた情熱は奈辺にあったのか、それだけ何とかしなくてはならないという社会的矛盾を彼らは肌身に感じていたことが重要だからだ。

 本書は事件そのものの解明よりも、事件に関係した場所を訪ね歩いて関係者から話を聞き、残された人々の置かれていた境遇を丁寧に掘り起こしていく記録であるところに特色がある。残された人々が事件後もずっと癒されることなく抱えざるを得なかった様々な思いを描き出し、再審請求・名誉回復に向けて努力する人々の姿からは大逆事件は戦後になっても決して過去の事件とはなっていなかったことが示される。

 予断と推測で冤罪が構成された司法手続の問題は、昨今でも“国策捜査”として話題になっているところと相通ずるところがある。また、遺族に向けられた世間のこわばった視線には社会的な同調圧力の冷たさがうかがわれ、こうしたことは現代でも決してなくなってはいないのではないかという著者の問題意識がうかがわれる。私自身が物心ついた時点では大逆事件は冤罪であることがすでに周知の前提となっており、暗黙のうちにすでにけりのついた問題であるという受け止め方をしていたが、当事者の息吹をヴィヴィッドに伝えてくれる本書の筆致から改めて問題の根深さを考えさせられる。

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