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2011年1月 9日 (日)

【映画】「ノルウェイの森」

「ノルウェイの森」

 原作の村上春樹よりもトラン・アン・ユン監督と李屏賓(リー・ピンビン)撮影という二人の組み合わせに関心があり、ストーリーではなく映像そのものを鑑賞するつもりで観に行った。この二人による「夏至」という作品を以前に観たことがあり、色合いが瑞々しく静かな叙情性が私は好きだった。そうした映像感覚は今回の「ノルウェイの森」にもよく生きている。日本の四季の移り変わりが映像的にしっかり織り込まれており、その点では南国ベトナムを舞台とした「夏至」よりも劇的変化を感じさせる緊張感も醸し出され、それが登場人物の心象風景と見事に呼応している。

 村上作品にはどこか乾いた気だるさが漂っている。その中で描かれている他者とのつながりを望みながらもなかなかうまくいかないもどかしさは、もしドラマに仕立て上げようとする場合、下手すると内向きに甘ったれたものになりかねない。ところが、この二人による映像を背景にすると、感傷的な切なさにも奥行きの広がりが浮かび上がってきて、そこが実に良い。

 1970年代の日本が舞台、セリフは日本語、撮影も日本で行なわれているが、時折カメラアングルによってはどこか別の国というか、我々が見知ったのとは異なるもう一つの日本のように感じられる瞬間があるのも面白い。日本を意識しながら撮影しても目のつけ所が違うからだろう。例えば、水辺で読書しているシーンとか。ミドリ役・水原希子の静かな微笑みはベトナム美人のように見えてくる。ちょい役で糸井重里、細野晴臣、高橋幸宏も出ていた。

 村上春樹作品の世界的ブームはよく知られているが、欧米では『羊をめぐる冒険』の人気が高い一方、東アジアでは『ノルウェイの森』の方が人気があると言われている(藤井省三『村上春樹のなかの中国』朝日選書)。例えば、つい先日台湾へ行ってきたばかりだが、この映画は台湾でもほぼ同時に上映が始まっており、駅構内やテレビでは広告をよく見かけたし、書店のベストセラー棚では『挪威的森林(ノルウェイの森)』が外国文学の1位になっていた。台湾大学近くの学生街では挪威的森林という名前のカフェを見かけた覚えもある。日本人原作の作品をベトナム人(フランス在住)監督と台湾人撮影監督が撮り、東アジア全般で見られているというこの状況が今や当たり前となっていること自体が少々感慨深い。

【データ】
監督・脚本:トラン・アン・ユン
撮影監督:李屏賓(リー・ピンビン)
原作:村上春樹
出演:松山ケンイチ、菊地凛子、水原希子、高良健吾、玉山鉄二、霧島れいか、ほか。
(2011年1月9日、日比谷、TOHOシネマズ・スカラ座にて)

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