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2011年1月 8日 (土)

台北旅行メモ3

◆1月3日(月)
【烏来へ】
・烏来へ行くつもりだが、朝から雨。肌寒い。台北車站の南側、青島西路に烏来行きのバス停があることは前日に確認してあったので、雨の中で待つ。台湾のバス停の時刻表は、よほど本数が少ない場合には個別の時間が記されているが、普通は「何時~何時まで、何分間隔で運行」という書き方である。
・9時ちょっと前に来たバスに乗る。すいており、観光客は他にいない。MRT新店線が地下を走っている上の大通りを進み、新店駅を過ぎたあたりから山の中へと入っていく。目的地に近づくにつれて原住民をデフォルメした彫像が目に入る。烏来はもともとタイヤル族の集落で、タイヤルの言葉で「温泉」という意味らしい。もともとこの地の人々に温泉につかるという習慣はなかったが、日本統治期に日本人がやって来て温泉地として開発されたという。
・1時間20分ほどで終着点に到着。雨だし、月曜日なので、観光客は少ない。商店街を抜け、大きく切れ込んだ川の上にかかった橋を渡り、対岸に行く。川岸に湯気がたって人々が湯治しているのが遠くに見える。対岸では川沿いにトロッコが運行されているので乗車。5分ほど乗って、烏来瀑布の見える地点まで行く。
・烏来瀑布前に土産物店があり、その前で「烏来原住民歌舞団の公演が10時30分から始まるのでどうぞ」とちらしをもらったので入ってみる。二階にのぼるとちょっとした舞台がしつらえてあり、私のあとから日本人の団体観光客も入ってきた。時間になると暗くなり、場末の安っぽいキャバレーのような照明がチカチカ。音楽とともにタイヤルの民族衣装を身に着けた若い男性2人、女性6人ほどの踊り手が入場してきた。この瞬間、私が想定していたのとは明らかに雰囲気が違うので困惑…。最後には観客を舞台に引っ張って一緒に簡単な踊りをして(私は断った)、踊る姿を写真に撮って帰り際にお金をとっていた。
・11時20分頃に終わったので外に出る。もう少し上に上っていくと、観光案内所があった。このあたりは桜が名物とのことで、4月が見頃なのかもしれない。近くにロープウェイがあったので乗ってみた。対岸の山上にある雲仙楽園につながっているのだが、雨の中散策に行く気力はない。なぜか小さな遊園地もあった。
・ロープウェイ脇の展望台に一人たたずみ、烏来の峡谷をじっと見下ろしながらもの思いにふける。温泉街の土産物屋に遊園地を目の当たりにした後では、かつて精悍な原住民が漢族系移民や日本軍とこの辺りで格闘したという歴史的イメージがどうにもわいてこない。雨降りにつれて雲があたりに立ち込め、はるか見やっていた視界を遮り始めた。先ほど見た歌舞団の踊りを思い返す。現代的にアレンジしたと言えないこともないが、文字通り温泉街のホテルや飲み屋の出し物という感じ。一生懸命踊ってくれているからそれなりに様にはなっているし、中には目鼻立ちのかわいい娘もいたので目はひかれるのだが、困惑感がどうしても拭えない。ここ烏来には温泉地として日本人観光客が頻繁に訪れる。従ってそうした観光客の趣向に合わせてこのような出し物になったのだろう。お金を落としてもらうため迎合せねばならず、これは見方を変えれば一種の経済的コロニアリズムとも言えるだろうか。民族学的関心よりも、むしろ社会学的関心の対象になる。話の脈絡としては適切ではないかもしれないが、踊りを見ながら何となく黄春明『さよなら・再見』を思い浮かべてしまった。そのようなことをつらつら考えているうちに、霧は晴れてきた。ロープウェイ発車の合図にベルが鳴ったので慌てて乗り込み、ふもとへ戻る。
・雨が降っていなければもう少しあたりを散策してもいいのだが、再びトロッコに乗ってバス停近くの商店街まで戻る。もうお昼どきなので、食事することにした。竹筒飯と筍のスープ、それから空心菜の炒め物もすすめられたので合わせて3点を注文。

【台北市内散策】
・バスに乗り、今度は新店で下車。MRTに乗り、公館で下車。台湾大学があるこの近辺には書店も多い。南天書局と台湾e店が今日は営業しているかどうかを確認、いま本を買い込むと散歩がきついので後ほど改めて戻ってくることにして、台湾大学脇の新生南路を北上。しばらく行くと、台北清真寺。イスラム圏と外交関係を結ぶようになってから1960年に建てられたらしい。ちょっと中に入りづらい雰囲気だったので、写真だけ撮ってさらに北へ進む。近くには天主教の大聖堂もあった。
・この辺りで北西方向に進路を切り替え、永康街に入る。台湾大学からこの永康街にかけてはかつて日本人が住む区域だったらしい。古い日本式家屋を今でもところどころ見かけるが、戦後は主に外省人が住んでいた。歩きながら日本式家屋ハンティングに勤しむ。すでに半世紀以上経過しているわけだから相当がたがきている。屋根がつぶれかけ、家屋全体をさらに鉄骨のアーケードで覆っているのもみかけた。永康街を歩いているとところどころ櫛の歯が欠けたように空地を見かけるが、おそらく古い日本式家屋を崩した跡であろう。

【中正紀念堂】
・信義路に出たので左折、中正紀念堂へ向かう。永康街から歩いて8分ほどだ。中正紀念堂には裏口から入り、まず1階の展示室へ。蒋介石についての通常展示のほか、第7回漢字文化節に合わせて「台湾百年詩社」という特別展示もしていた。台北の瀛社、台中の櫟社、台南の南社などに所属した詩人たちの書を展示。有名どころでは林献堂とか林熊徴とか。中には「昭和」の年号が記された時代の書もあった。
・中正紀念堂のご本尊をおがみに行ったところ、ちょうど儀仗兵の交代式だった。そうか、馬九英政権になって儀仗兵が復活したんだな。三人の衛兵が歩調をぴったり合わせ、ペースはゆったりながらも動作のきびきびとしたグースステップをふむ。小銃をクルクル回すパフォーマンスも息が合っている。好き嫌いは別として、国家予算をかけてパフォーマンス・アートを洗練させていると言えるか。よくできていても拍手しちゃいけないのが普通の芸人と違うところだ。
・2年前にここへ来たときはちょうど選挙戦の真っ最中、陳水扁が汚職疑惑で低下した支持率を挽回しようと悪あがきして正名運動を展開していたときだ。中正紀念堂は台湾民主紀念館と名称が変更され、通りに面した大門の扁額は自由広場と書き換えられた。堂内では恐怖政治に対する民主化運動の成果を示すパネル展示を並べ、蒋介石の銅像の周りにはポップ・アート調の凧が舞っていた。結局、国民党が政権に復帰し、自由広場の扁額は残ったものの、中正紀念堂は元に戻され、儀仗兵も復活した。台湾における族群政治の焦点となった場所の一つである。

・中正紀念堂車站からMRTに乗って公館に戻り、南天書局と台湾e店のそれぞれで棚をくまなく眺めながら本を買い込んだ。両手がふさがってしまったのでタクシーに乗って宿舎に戻り、荷物を置いてから再び外出。
・すでに19時過ぎ。歩いて林東芳牛肉麺を食べに行く。きれいとは言い難い店のたたずまいは、日本でも下町のうまいラーメン屋といった雰囲気だ。有名店の割りに商店の並びにまぎれているが、行列があったのでここかと見当がついた。牛肉麺大椀160元を注文。今日みたいに肌寒い日には本当においしい。酒を飲んだ帰りにラーメンを1杯という感じだ。横で牛肉麺をすすっていた柄の悪いにいちゃんは最初にスープを飲み干して、スープだけお代わりしていた。なお、牛肉麺は大陸から来た外省人が工夫したメニューで、眷村文化に分類されるらしい。
・微風広場の紀伊國屋書店(ここは他にも東急ハンズ、無印良品など日本系店舗が集まっている)、太平洋SOGOのジュンク堂書店を見て回ってから、誠品書店敦南本店へ行く。
・宿舎へ戻る途中、コンビニに寄ったところ、飲冰室茶集なる紙パックのお茶を見かけ、梁啓超先生に敬意を表して買って飲んでみた。ミルク・砂糖入りの緑茶だったのだが、まずくはないにせよ、日本人の味覚にはちょっと合わないな。

◆1月4日(火)
・早朝から24時間営業の誠品書店敦南本店へ行って棚を眺める。それからMRTに乗って台北車站で下車、10時ちょうどのタイミングで台北當代藝術館にたどり着いた。
・台北當代藝術館は日本統治期の小学校、戦後は台北市庁舎になっていたレトロなレンガ建築の中で現代アートを展示している。「媒體大哼(mediaholic)-倪再沁特展」という特別展示をやっていたので見る。倪再沁という人は台湾の前衛芸術で有名なのだろう。4匹の猪が重なった「~怪談」シリーズの絵や彫刻、アンディ・ウォーホルや村上隆を意識したような絵とか変な作品がある一方で、正統的な水墨画による風景画もあった。パフォーマンス・アートもやっているようで、芸術館の前には2012年総統選挙立候補という設定による選挙カーが置いてあった。館内のビデオでは、迷彩服の人々を引き連れて町を練り歩くハプニング形式のパフォーマンス・アートの記録も放映されていた。
・宿舎に戻って12時頃にチェックアウト。早めに桃園国際空港へ行く。カウンターへ行ったら、ちょうど北京行きの飛行機に搭乗予定の中国人団体観光客の中に紛れてしまい、何箱ものお土産を抱えた彼らが正規の順番なんてお構いなしに力押しでガンガン割り込んでくるのに圧倒されて呆然としている中、やっとカウンター職員の人に気付いてもらってチェックインできた。職員の人もパニクった様子で息を切らせていた。
・16:50桃園国際空港発のチャイナエアラインCI106便で成田国際空港には20:30頃着。スムーズに帰れた。

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