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2011年1月21日 (金)

王甫昌《當代台灣社會的族群想像》

王甫昌《當代台灣社會的族群想像》(台北:群学出版、2003年)

 台湾の政治的・社会的な変動力学を考察する上でどうしても避けては通れないのが「族群」という現象である。本書は戦後台湾社会においてこの「族群」意識が芽生えてきた社会的条件の検討を通して、いわゆる「四大族群」それぞれの成立経緯を整理してくれる。「族群」問題の格好な手引きとなる本だ。

 「族群」(ethnic group)の第一の条件は「我々」と「他者」との区別であり、その際には来歴・文化的共通性が指標となる。ただし、その共通性とは本質主義的に自明なものというわけではなく、歴史的・社会的・政治的条件に応じて選択的に構築された側面が強い。その点に本書は着目して「族群想像」(ethnic imagination)という表現を用いている。とりわけ自分たちは社会的に不公平な立場を強いられているという弱勢意識を抱いているときに集団行動の必要性が自覚される。その際に集団的凝集力を強める「神話」として「族群想像」は作用するわけだが、自分たちの権利の公的認知を求める動きとして表れる点で現代的性格の強いことが指摘される。

 台湾の「四大族群」は重層的な構造となっており、第一に漢人と南島語族系の原住民、第二に漢人の中でも本省人と外省人、第三に本省人の中でも閩南人と客家人の区別がある。それぞれの内部でも方言的・習俗的差異があって決して一つにまとまっているわけではない。特に原住民に関しては、本書執筆の時点では十族とされているが、アイデンティティ・ポリティクスの進展により、さらに「族群」としての認知を求める動きがあって増加傾向にあり、数字は流動的だ。

 それぞれの「族群意識」を成立させる種族的・文化的条件は過去に遡ることができるにしても、政治意識としての自覚が芽生えたのは実はそれほど古いことではない。国民政府の遷台、とりわけ二・二八事件をはじめとする恐怖政治によって、台湾在来の人々には外省人から抑圧されているという思いから本省人アイデンティティが生まれた(省籍矛盾)。そして1970年代以降、台湾内外の情勢変化に応じて民主化運動が本格化、ここから台湾民族主義の言説が表面化し始める。

 漢族優位の社会経済システムの中で原住民は最底辺に置かれていたが、1980年代になって大学に学ぶ原住民青年たちを中心に自覚的な動きが始まり、これが民主化運動と結び付く中で原住民アイデンティティの回復を目指す運動が本格化した。

 他方で、台湾民族主義言説が人口的に多数派の閩南人中心の動きであったため、同じ本省人でも少数派として飲み込まれかねない危機意識を募らせた客家人は閩南人への対抗意識から客家アイデンティティの主張を強める。これは1987年の「客家権益促進会」結成が起点とされる。

 外省人は中国各地から逃げ込んできた人々の総称で、出身地も方言もばらばらであったが、国民党政権との結びつきによって本省人とは異なるグループとして一体感が形成された。外省人もまた客家人と同様に、閩南人中心の台湾民族主義言説によって自分たちの拠り所である中華民族主義が消え去ってしまうという危機意識を抱き始め、1990年代に国民党主流派や民進党に反対して国民党を離党した新党の結成が一つのメルクマールとなる。この時点では外省人の方が閩南人に対して弱勢意識を持ったと言える。

 「族群」間の抗争は不毛な泥仕合に陥ってしまうおそれがある一方で、権利を主張する社会運動の手段として一定の有効性があることも指摘される。以上の「四大族群」の成立経緯からは、不平等意識、弱勢意識をきっかけとした対抗言説が連鎖的に相互反応を示しながら「族群意識」が展開してきたことが見て取れる。これはそれぞれの社会的権利やアイデンティティの回復・維持を目指して表面化した動きなのだから、「族群」としての主義主張の内容如何に目を奪われるのではなく、こうした社会的コンテクストそのものにどのような問題点が伏在しているのかを改めて問い直す必要があるのだろう。

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