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2011年1月 5日 (水)

林媽利《我們流著不同的血液:以血型、基因的科學證據揭開台灣各族群身世之謎》

林媽利《我們流著不同的血液:以血型、基因的科學證據揭開台灣各族群身世之謎》前衛出版、2010年

 これも台湾の書店で歴史関係の新刊台に積まれているのを見かけて購入した本で、昨晩、帰りの飛行機で読み終えた。タイトルを日本語訳すれば、『私たちには違った血液が流れている:血液型・遺伝子の科学的根拠に基づいて台湾各族群の出自の謎を明らかにする』というところだろうか。ここで言う「私たち」というのはもちろん広い意味での台湾人のことだ。台湾住民の血液型やDNAの分析結果に基づいて「台湾人」には形質人類学的に非常に複雑なルーツが絡まりあっていることを示し、「台湾人」=「中国人」というかつては自明視されていた言説は必ずしも成り立たないことを指摘する。

 著者は馬偕紀念醫院の医師であり、もともと台湾において未整備であった輸血制度の確立に尽力していた。その仕事に取り組む中で台湾住民の血液型分布を研究、とりわけ「米田堡(Miltenberger)血型」という輸血時に注意を要する特殊な血液型が台湾に頻出していることの発見がきっかけだったらしい。「米田堡血型」は原住民のアミ族には95%、ヤミ族に34%、プユマ族に21%見られ、これは世界的に極めて稀な頻出度だという。他方で、同じ原住民でもブヌン族は0%、また外省人のうち長江以北出身者も0%であり(日本人も0%)、このように台湾来住者のルーツの多様性を血液型分布の分析によって明らかする。それから、原住民のSARS罹患率は0%で、大陸渡来の漢族系と際立った対照を成しており、これはなぜなのかという医療現場において実際的な問題提起もしている。

 明清期の海禁政策により大陸から渡来した漢族は男性がほとんどで女性は少なく、従って平埔族(台湾西岸平野部の原住民)との混血が進んでいたことは昔から指摘されており、その点では必ずしも目新しい議論ではないが、医学的な根拠による知見が提示されているところが興味深い。

 本書でもう一つポイントとなるのは、大陸渡来の閩南系・客家系のルーツを北方漢族とは異なった南方漢族=「越」族に求める議論である。彼らは中国の史書に見える「百越」にルーツを持つが、これはもともと「漢」族ではなく、「中原」の北方文化から影響を受けて「漢」族としてのアイデンティティを持つようになった南方系の「越」族である。つまり、言語的・習俗的に「漢」族へと同化した「越」系民族が閩南系・客家系それぞれの自意識を持ちながら台湾へ渡来、この地で平埔族との混血が進んだと捉えられ、いずれにしてもDNA分析上では北方漢族との相違が大きいことが指摘される。なお、昨年末に読んだばかりの矢吹晋・藤野彰『客家と中国革命』(東方書店、2010年)でも「越」系民族が「漢」化したグループに客家のルーツの一つを求める議論が提示されており、本書の議論とも共鳴して興味深い。

 もちろん、「中華」民族観念は文化的共有性に基づくアイデンティティ意識であるため、こうした形質人類学的相違が明らかになったからといってその観念が崩れるわけではない。また、血統意識をあまり強調しすぎると優生学的人種論に陥る可能性も懸念されるので注意する必要はある。他方で、「一つの中国」意識が政治的に強固な国民国家イデオロギーとして作用している場合には、その虚構性を相対化して民族的ルーツの多元的開放性を示す論拠としてプラスの意味を持ち得るだろう。

 なお、台湾独立派の歴史家である李筱峰が本書に序文を寄せている。著者たちの研究で被験者の一人となった彭明敏の紹介で知り合ったようだ。

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