堅田剛『明治文化研究会と明治憲法──宮武外骨・尾佐竹猛・吉野作造』
堅田剛『明治文化研究会と明治憲法──宮武外骨・尾佐竹猛・吉野作造』(御茶の水書房、2008年)
明治文化研究会に参集した吉野作造、尾佐竹猛、宮武外骨、石井研堂、斉藤昌三、木村毅、柳田泉、他の関係者も探れば色々と出てくるだろうが、それぞれに個性が強く、思想史的群像ドラマとして考えると面白そうに思って、何か取っ掛かりはないかと検索していたら見つけた本。著者の基本的な関心は法制史の方にあるらしく私の関心を必ずしも満足させてくれるわけではないが、これはこれで興味深い。
明治文化研究会の設立意図の中心として吉野の明治憲法制定史への関心をたどり、合わせて宮武外骨・尾佐竹猛にも言及される。本書の軸となるのは『西哲夢物語』である。原本は、漏洩した明治憲法関係文書、特にグナイストの講義録や憲法草案などを、明治憲法制定に批判的な民権派が暴露の意図を持って秘密出版したものらしい。これをある日、吉野作造が古書店で見つけて鳥肌が立ったのが話の発端となる。明治憲法制定史の洗い直しを意図していた吉野だが、以前、伊藤博文と共に憲法制定に深く関わった伊東巳代治に談話を求めたところ拒絶されたという経緯があった。『西哲夢物語』と題された文書は、実は伊東から盗まれて流出したものだったらしく、それが拒絶の理由でもあったろうか。民本主義の旗手としての吉野への反感もあったらしいが、いずれにせよ、憲法制定史の空白を埋める文書として吉野は注目し、明治文化全集憲政編に収録された(校訂は吉野の弟子であった今中次麿)。
宮武外骨は明治憲法発布に際して、「大日本頓智研法発布式」というパロディを書いて投獄されたが、後に井上毅文書を調べていた尾佐竹猛がその中に宮武を告訴する必要などなかったという井上の意見書があるのを発見、これを受けて宮武は筆禍雪冤祝賀会なるものを1934年に日比谷松本楼で開いたらしい。出席者を挙げると、尾佐竹、石井、斎藤昌三、柳田泉、穂積重遠、伊藤痴遊、小林一三、博報堂の瀬木博尚、江見水蔭、白柳秀湖、篠田鉱造、今村力三郎、国分東厓など。人脈の幅広さが面白い。
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