劉進慶・朝元照雄編著『台湾の産業政策』
劉進慶・朝元照雄編著『台湾の産業政策』(勁草書房、2003年)
・戦後台湾における産業政策を概観した分担執筆による論文集。新古典派的な市場メカニズム重視のアプローチとは異なり、台湾では政府主導の政策によって有効に民間企業が刺激されていたと捉える視点で一貫している。
・1950年代:輸入代替工業化(一定の保護政策の下、国内産業振興によって工業化を図る)→1960年代:輸出志向工業化(労働集約型工業化)→1970年代:重化学工業化(第二次輸入代替工業化)→1980年代以降、ハイテク産業育成。
・従来の中小企業における労働集約型工業は低賃金によって低価格→アメリカ・日本へ輸出。ところが、実質賃金の上昇→東南アジア、中国大陸へ生産拠点を移転、さらに中国の経済的台頭→台湾国内では技術・資本集約型製品の生産へと生産構造を転換する必要→科学技術重視の政策、ベンチャー・キャピタル(ハイテク重視)。
・重化学工業に続く産業分野として、1980年代以降、電子産業育成政策が成功。
・低賃金の労働集約型から技術・知識重視の産業構造へと転換するにしても人材が必要→民主化の進展、李登輝が在米のノーベル化学賞受賞者・李遠哲を呼び寄せたのを皮切りに、頭脳流出していた海外の技術者が台湾へ戻り始める。反体制的な考えを持つ人々も民主化の進展に好感。
・日産接収→公営企業は実質的に国民党系人脈の経営→経営の非効率性が問題となって民営化が進められたが、民営化後の経営自立性の高いイギリス・日本とは異なり、台湾では従来の人脈関係から政府介入が完全には放棄されなかった。
・外資導入→技術移転(正式な契約、技術指導、スピンアウト)。技術移転では一般的に言語が障害となるが、日本からの技術移転はスムーズ→ラジオ・テレビの組立技術。技術移転そのものよりも、周辺産業の誘発・育成、海外の多国籍企業との関係構築などの貢献。
・知識経済の進展と教育問題。
・石油化学工業、電子産業におけるハイテク産業振興政策(李國鼎のイニシアティヴ)の事例研究→政府主導の政策誘導の有効性を確認。
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