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2010年12月15日 (水)

松永正義『台湾文学のおもしろさ』『台湾を考えるむずかしさ』

松永正義『台湾文学のおもしろさ』(研文出版、2006年)、『台湾を考えるむずかしさ』(同、2008年)

 台湾が日本の植民地支配から解放された後、自分たちの主体性をいかに回復するかという問題意識に対して、それは台湾の取り戻しなのか、中国の取り戻しなのか、という二通りの方向性があり得た。光復当初、この二つは重なり合っていたが、国民党政権による中国意識押し付けがあまりに厳しかったため、こうした言論弾圧への反発から、台湾の反体制的言論空間においては民主化要求と台湾意識とが絡まり合いながら進行していく。中国と日本に挟まれた中で揺れ動いてきたナショナル・アイデンティティー、その複雑な機微を文学や言語の問題から読み解こうとした論考が集められている。

 タイトルに「おもしろさ」とあるが、それは台湾社会の奥深い複雑さが著者にとって研究のしがいがあるという意味で、それには私ももちろん同意するが、台湾についてよく知らない一般読者に向けて文学的「おもしろさ」を伝えるという趣旨ではないので注意されたい。著者がこれまで学術誌や大学紀要に書き溜めてきたものを寄せ集めた本で(主著のない学者が業績作りのためによくやることだ)、全体を通して明確なテーマがあるわけではない。研究動向の資料的紹介が多く、過去の台湾文学研究というのはこんな感じだったんだ、と窺い知る上では参考になる。1980年代から2000年代まで執筆年代はバラバラ。例えば「大陸で選出された議員はいまだに改選されていない」などという一文があって、思わず奥付を確認してしまった。初出掲載時の文章を尊重するという考えはわかるにしても、現在の情勢に合わせた訂正が加えられていないのは明らかに怠慢である。

 弟子筋の丸川哲史と同様に著者は中台統一派に近いスタンスをとる。それはそれで一つの考え方だからいいのだけれども、独立論にちょっとでも論拠を与えかねない議論に対してはナーバスで、例えば、日本統治期における出版市場形成→台湾アイデンティティ形成という藤井省三の議論と小林よしのりの『台湾論』とを、議論としての質の相違は無視していっしょくたにして批判しているのにはさすがに驚いた。

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