許世楷『日本統治下の台湾──抵抗と弾圧』
許世楷『日本統治下の台湾──抵抗と弾圧』(東京大学出版会、1972年)
・日本の支配に対する抵抗と弾圧が繰り返されながら抵抗が徐々に弱まり、日本による植民地統治が確立していくプロセスをたどる。とりわけ1895~1902年の武力抵抗は激しかったが、これは日本側からは匪賊とみなされ、他方、中国では抵抗集団=中国ナショナリズムの発露とみなされて、いずれにしても台湾住民の主体的動きが無視されてきたという問題意識を示す。
第一部 統治確立過程における抗日運動(1895─1902)
・台湾民主国成立、しかし旧清国軍は潰走、逃亡したのに対して、地元の義勇軍は抵抗継続。
・日本側の無差別報復的討伐→抵抗運動の気力を挫く一方で、政治的無関心層までも抵抗へと傾斜させた。
・抗日軍は当初は軍紀厳正、しかし戦況不利、補給困難→匪賊化傾向、一般住民との関係冷却。日本側は、当初は軍事征伐のみで対応していたが、警察を中心に討伐と招降の硬軟両様の対応へと転換。
・雲林地方で簡義ら鉄国山抗日軍。中西部の抗日軍の指導層に読書人は少なく、土着性強い→北部での抵抗とは違って清国復帰の意図はほとんどなし。
・抗日軍は旧時代性を払拭できず→民衆の革命的エネルギーを吸収・組織できず。日本は抵抗軍と一般住民とを区別して対応、両者の分断に成功。
・1915年4月の西来庵事件を最後に武力抵抗はなくなる。
・抗日軍の存在を理由として「法律第六十三号」→台湾総督の専制的権力。
第二部 統治確立後の政治運動(1913─1937)
・同化会。差別政策撤廃運動→六三法、教育の問題。日本の留学生たちが台湾青年会。啓発会(1918)→新民会(1920)
・六三法撤廃運動→内地延長主義→同化主義を承認するのか、それとも台湾人の特殊性→日本本国とは別枠の民主主義=自治→台湾議会設置請願運動。
・台湾の農民が近代的所有関係を知らないことにつけこんで林野の官有林編入→日本人資本家に払い下げ→竹林問題。バナナ問題。蔗農問題。
・文化協会→左翼勢力の発展、中国国民党の国共合作という動向への関心→文化協会の分裂。蒋渭水、蔡培火、彭華英たちは台湾民衆党を結成→蒋渭水たちは農工階級を中心に全民運動に乗り出し、労働運動へも進出。共産党の進出。民衆党の分裂→林献堂たちは地方自治連盟(1930)。
・こうした政治運動の特徴としては、①民族自決、デモクラシー、共産主義など近代思想を内容とする、②台湾人への思想上の啓蒙活動に努力、③武力闘争ではなく政治結社を手段とした、④台湾以外にも日本人、中国人、朝鮮人など支持者の広がりがあった。
・前半期の抗日闘争が伝統的エリートによる地方的闘争であったのに対し、後半期の政治運動は新しい型の指導者による台湾人トータルの運動であった。
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