張宗漢『光復前台湾の工業化』
張宗漢『光復前台湾の工業化』(交流協会、2001年)
・原著は1950年頃に書かれたものらしい。著者は大陸から来た経済専門家で日本資産接収時の資料を踏まえて日本植民地支配期における台湾経済工業化のプロセスをたどる。
・前期は1895~1931年の日本企業の自由発展段階、後期はそれ以降1945年までの戦時期統制経済の段階と分類。
・清朝の時代、砂糖、茶、樟脳の輸出は請負の買弁商人を使う外国商人によって独占されていたが、日本が植民地支配を始めるにあたって駆逐。
・第一次世界大戦後の好況→台湾は日本企業の投資先、総督府の保護政策→日本人経営事業が独占。例えば、製糖業では三井系が大きい。
・台湾の農産物→より安い南洋産との競争が厳しくなった→工業化への転換。
・台湾の面積は狭いので、日本人の農業移民は少なく、「工業移民」方式で大量移住。
・政治的・軍事的要因→南進政策→「工業台湾、農業南洋」。
・農業の多角化→農産物加工業。日本、南洋、中国が市場。
・台湾の人件費→大陸に比べると高い→安価な労働力の確保ができないので生産力増産、大量生産を目指す。
・日月潭水力発電所が台湾工業発展の契機。
・技術は日本人中心の教育体制→台湾人の技能者があまり育たず。
・日月潭水力発電所の完成と新興工業の勃興(1931~35年):農業改造。食管制度の実施。山地開発。水力発電所の完成。鉄道・一般道路・港湾の整備。工業化を前提とした調査研究。人材育成。
・日本の準戦時体制下における台湾工業の積極的建設(1936~40年):第一次生産力拡充五カ年計画など戦時動員計画による統制配給制度→資金、労働力、原料、器材等を工業へ優先的に供給。不足物資の補充を日本に依存する一方、原料は南洋から入手→有事の供給ストップへの不安。企業結合が進んだ。
・戦時工業動員(1941~45年):日本での余剰設備の移転→日本企業は廃棄損を回避、生産加速に効果的ではあったが、古いので効率は悪かった。日本の植民地として台湾は軽工業の輸出市場→本国は競合する台湾工業を望まず→紡績品、飲食品、肥料などは台湾では一貫して輸入品の中心→従属性→政治的コントロールの手段。労働力不足→女性労働者の増加、また技能労働者があまり育成されず→労働力に見合った生産性の伸びは見られず。日本人と比べた不平等な差別賃金・待遇、農業における賃金よりも工業における賃金の方が低い→台湾人の工業労働転換のインセンティヴ働かず→強制労働的な対応。
・1941年まで工業生産は伸びていたが、それ以降は戦争の影響で年々減少。敗色濃くなると輸送困難→南洋からの原料供給ストップ→工業稼動できず。
・当時の台湾はすでに農業中心経済から離脱していた。輸出品において工業産品は8割近くを占め、その中心は農産物加工品であったが、金属工業・化学工業産品も年々増加していた。
・工業化に伴う国民生活の改善:照明用電灯の増加、鉄道旅客数の増加、水道利用、ラジオ台数の増加、レンガ・セメント生産量増加→住居条件改善、就学児童数増加、郵便集配件数増加、医療・衛生関係者数増加。
・農業社会から工業社会への転換にあたり、工業化に取り組みながらも農業開発も怠らず同時に発展させたこと。台湾の労働力と動力資源、日本の技術と資金、「南洋・南支」各地の原料を有機的に統合させたこと、以上が台湾工業化成功の要因。
・結論部で、日本が植民地統治で残した経済基盤を活用して反攻大陸を実現させようと締め括られるのは当時の紋切り型か。
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