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2010年12月31日 (金)

戴國煇の本を何冊か

 しばらく台湾独立派の本ばかり続いたので、バランスをとるため違う見解の人の本を読みたいと思い、戴國煇の本を何冊か手に取った。日本における台湾研究を牽引してきた一人であり、研究者の回顧でも戴國煇にお世話になったという言及がよく見られる(例えば、春山明哲『近代日本と台湾──霧社事件・植民地統治政策の研究』[藤原書店、2008年]所収の回想記など)。また、戴國煇は客家出身であり、昨日読み終えたばかりの矢吹晋・藤野彰『客家と中国革命』(東方書店、2010年)で、矢吹は若い頃にアジア経済研究所の先輩だった戴國煇と出会って客家に関心を持ったという趣旨のことを述べている。

 戴國煇『台湾──人間・歴史・心性』(岩波新書、1988年)は以前に読んだことがあったので、『境界人の独白──アジアの中から』(龍渓書舎、1976年)、『台湾と台湾人──アイデンティティを求めて』(研文出版、1979年)、『台湾という名のヤヌス──静かなる革命への道』(三省堂、1996年)の三冊に続けて目を通した。いずれも雑誌等既出の論考・随筆を集めた構成で体系的な台湾論となってはいないが、時論を通して自分の見解を直截に述べる辛口から熱血漢ともいうべき人柄はしのばれるし、比較文化論としても面白い。この三冊の中では『台湾と台湾人』が一番まとまった内容になっているように思う。特に「植民地体制と知識人」では台湾出身で日本・中国大陸を行き来した様々な人たちを取り上げ、彼らを通して台湾人としてのアイデンティティの葛藤を浮き彫りにしており、興味を持った。他に霧社事件を取り上げた本も重要だが未読。

 台湾論では政治的にナーバスとならざるを得ない問題が二つある。第一に、植民地遺制をどのように捉えるか。近代化→日本による植民地支配を正当化する論調につながりかねない側面があり、これに対して戴國煇の批判は厳しい。

 第二に、台湾独立論をどのように考えるか。他人の国のことだから支持・不支持を言う筋合いはないので、このテーマはどちらの立場の議論であっても日本人である私としては読んでいてどうにも居心地が悪い。戴國煇は、「台湾民族」なるものは虚妄であるとして独立論に対して明確に反対の論陣を張っている。第一に、独立派は狭義の台湾語=福佬語話者中心の偏狭な立場を取っており、それだと台湾内ではマイノリティーである客家や原住民が抑圧されてしまうという批判。第二に、福佬系と客家系<台湾人<中国人という重層的なアイデンティティ構造による中国人意識を持っており、これを分断する考え方に対しては強い拒否感を示している。客家アイデンティティには中原から南に逃れた子孫という伝説→自分たちこそが中華の正統な後継者であるという思い入れがあると言われるが(その正否はともかく)、戴國煇の議論にもそうしたプライド高さはうかがわれるように感じられた。

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