凃照彦『日本帝国主義下の台湾』
凃照彦『日本帝国主義下の台湾』(東京大学出版会、1975年)
・日本資本主義による台湾経済植民地化の過程を当時のデータに基づきながら実証的に分析、とりわけ日本側の資本主義的発展段階が台湾経済の変容に連動していたプロセスに注目する。日本独占資本=資本家的企業の進出・支配と台湾伝統社会における土着資本=地主制が並存、前者が後者を利用しながら経済的収奪を進めていたところに台湾植民地経済の特徴があったと指摘する。
第一章 台湾経済の歴史的特質と商品経済
・日本統治以前→地主的私有制、大陸や外国商人との交易から商品経済がすでに普及していた。地主の存在→日本の土着農民への直接支配困難→地主制を温存・利用しながら資本主義化が展開。
・日本資本進出の基礎工事:土地調査事業→地主の整理。台湾銀行を基軸とした貨幣金融制度。
第二章 台湾経済の植民地化過程、第三章 台湾農業の畸形的再編成
・日本の製糖業は輸入原料加工産業への転換期にあたっており、台湾領有によって原料確保。当時の市場的条件から米、茶、樟脳よりも有利なものとして製糖業を推進、保護政策。
・台湾で蓬莱米の開発、生産力向上。日本では植民地へ工業製品を売り込む反面、国内農産物の価格が相対的に上昇していた。また、台湾では甘蔗栽培によって商業的農業の土台ができていた→日本の米価政策と連動しながら台湾の米穀は日本市場と結びついた。
・当初は砂糖中心の貿易構造→1920年代後半から糖・米二大商品が基軸(両方あわせて全体の70%を占める)。
・「糖・米相剋」関係:日本本土での農業保護=米価維持政策→米価の相対的上昇→台湾での米作への誘引→糖業後退。
・総督府の農業調整政策→台湾米穀移出管理令→農民から米穀を強制的収奪、日本の資本家は本土における買取価格との差額から利益。
・1930年代後半から工業部門の生産額における比率が上昇→40年代には農業生産を上回る(ただし、米価抑制政策などを考慮する必要あり)→工業化では土着人への差別的賃金政策。
・近代糖業の確立→賃労働者層の創出は実はあまり大きくなかった。人口構成は依然として農業主体。
・日本の植民政策は、地主・小作関係の温存・安定化を意図→農民の余剰労働の収奪。
・農家経済構造の不安定性→農民層分解。
第四章 日本資本の支配と膨脹
・台湾銀行の役割。
・台湾製糖(三井系)など日本内地資本の進出→1911年までに欧米資本を駆逐、土着資本の従属化、製糖業の合同・再編成(台湾製糖、明治製糖、日糖興業の三大会社と塩水港製糖)→糖業資本の独占。
・第一次世界大戦以降、台湾銀行は日本内地に金融の重点→鈴木商店の破綻、金融恐慌→台湾は日本資本主義の構造に組み込まれていたので島外の事情で左右されてしまう。
・糖業そのもので拡大再投資には限界あり。また、製糖業は内部留保を増やして(金融恐慌の教訓もある)銀行から相対的自立性を確保→他産業(主に島外)へ投資。
・1930年代から新興産業資本が進出。1936年には国策会社の台湾拓殖会社。地場日経資本の赤司初太郎、後宮新太郎は内地資本とつながりながら発展。
第五章 土着資本の対応と変貌
・旧来型の地主資本としては林本源家、林献堂家、砂糖輸出業の陳中和家、日本資本と結びついて発展した資本としては、辜顯榮家、鉱業請負の顔雲年家の五大家族。ただし、日本人中心で自立性なし。
・林献堂はブルジョワ民族運動派となったのに対し、辜顯榮、林熊徴などは御用士紳として民族運動に反対
・植民地遺制は戦後台湾経済内部におけるゆがみを再生産することになった:①植民地期において土着資本勢力=地主階級の弱体化→戦後における土地改革の前提、②強固な中央集権体制→戦後に受け継がれた、③日本資本の巨大企業と土着生業的零細商工業という二重構造→戦後における公業・民業の二重構造へ、④糖・米モノカルチュア的生産形態→農民たちへの強制的な剰余価値収奪システム、日本・アメリカ貿易への従属性といった形で戦後も継続。
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