【映画】「ソフィアの夜明け」
「ソフィアの夜明け」
ベランダから一望されたブルガリアの首都ソフィアの風景。社会主義時代に建設された高層団地はすでに古びたたたずまいを見せている一方で、開発計画で更地にされた一帯はそのまま取り残されており、寂しげな印象をいっそう強めてくる。
自宅に居心地の悪さを感じてストリートをうろつき、極右のスキンヘッド集団に引きずり込まれて行く少年ゲオルギ。兄のイツォは麻薬中毒のリハビリ中、本来は芸術家志向だが、不本意な仕事に気持ちがすさんでおり、恋人にも邪険にあたりちらしている。ある晩、トルコ人一家がスキンヘッド集団に襲撃された現場にたまたま居合わせたイツォは止めようと割って入り、彼も殴り倒されてしまった。この縁でトルコ人一家の娘ウシュルと親しくなったが、人種差別的暴力におびえた一家の父親は二人の交際を認めない。精神的な安住の地が見つからずさまようそれぞれの姿が描かれる。
スキンヘッド集団に吸引される若者たちの姿、ネオナチの台頭、暴動…。廃墟とまでは言わないにしてもくすんだ色合いの街並みで繰り広げられるこうした光景は現代ブルガリア社会のある一面を映し出しているのだろうか。同時に、登場人物の行き詰った焦燥感、居場所の見えない精神的彷徨、民族という見えない壁で隔てられてしまった関係、こうしたやりきれない心象風景を象徴的に具現化しているようにも見える。それでもなおかつ何かを求めようとする彼らのパセティックな心情が時にこの風景と感応し、それが美しくも感じられてくる。
説明的なくどさがない分、観客それぞれが深読みしていく余地のありそうな構成となっている。主役のイツォを演じた人は実際に麻薬中毒の経験のある芸術家で、この人の生き様を描こうという意図からこの映画の製作が始まったらしいが、撮影終了間際に事故死してしまったという。
【データ】
英題:Eastern Plays
監督・脚本:カメン・カレフ
2009年/ブルガリア/89分
(2010年11月14日、渋谷、シアター・イメージ・フォーラムにて)
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