北河大次郎『近代都市パリの誕生──鉄道・メトロ時代の熱狂』
北河大次郎『近代都市パリの誕生──鉄道・メトロ時代の熱狂』(河出ブックス、2010年)
今年度サントリー学芸賞受賞作。19世紀、産業革命は技術を高度に発達させ、空想的社会主義者たちは自らの夢を語る、そうした進歩への熱狂が人々を駆り立てていた時代。サン=シモン主義者のシュヴァリエはパリを中心に置く「地中海システム」という鉄道網を構想、中央集権志向のエリート・エンジニアであったルグランも同様に「ルグランの星」を思い描いていた。しかしながら、こうした鉄道網の集結点となるはずのパリでは都市公共交通網としてのメトロ建設が遅れ、各地方から集まる路線の終着駅は分散配置の形を取ることになってしまう。ここには、国家主導の計画に対する地元セーヌ県・パリ市の頑強な抵抗があった。すなわち、国土計画=鉄道網の論理と自治を求める都市の論理、そして双方の間で揺れる土木技師団という構図が見て取れる。計画は遅れ、妥協されていく。しかし、見方を変えれば、過去の伝統を次々と放棄する進歩の時代にあっても、こうした両者のせめぎ合いがあったからこそ、時間をかけて都市の価値を再確認、共有されていったのだと本書は指摘する。合理性と情緒、近代と伝統、一見相反するようでいながらも時間をかけて両者の帰結点を模索したプロセスとして、パリにおける都市計画史を捉え返していく観点は興味深い。
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