朴贊雄『日本統治時代を肯定的に理解する──韓国の一知識人の回想』
朴贊雄『日本統治時代を肯定的に理解する──韓国の一知識人の回想』(草思社、2010年)
私自身としては肯定、否定といった二分法的な価値判断を前提として歴史事象を考えることに馴染みがないことをまずお断りしておく。
本書は日本植民地下の朝鮮半島で過ごした青春期を回想した手記を中心としており、原文自体が日本語で記されている。だいぶ恵まれた家庭環境に育った人のようで、日本人に対する敵愾心はない。母方の親戚には呂運亨もいたという。ある時代経験を振り返るにしても、その人がどのような立場にいたのか、どのような人々と付き合っていたのかによっても世の中の見え方はかなり違ってくる。様々な立場の人にどのように見えていたのかをつき合わせることにより、後知恵で意味づけをせざるを得ない後世の歴史認識をできるだけ相対化していくという点で、本書に回想される上流階層の生活や学校のエピソードは興味深い。
著者は、北朝鮮の共産主義政権、韓国のかつての軍事政権、双方に対して批判的な立場を取っている人で、1970年代以降はカナダに移住していたらしい。ちょっと深読みにはなるが、韓国社会の現実に対する批判がその反措定として日本に対する親近感を芽生えさせているようにも思われる。こうした形の心情は台湾の懐旧老人によく見られる。繰り返しになるが、そのことの是非を問題にするつもりはない。本書を読んだ日本人が、日本の植民地支配は良かったんだ、と無邪気に喜ぶのは不毛な読み方で、むしろ著者のような心理的契機が生まれる政治空間をどのように捉えるのか、そこを汲み取りながら読む方がより一層歴史の理解に資するのかなという気がする。
| 固定リンク
「近現代史」カテゴリの記事
- 【七日間ブックカバー・チャレンジ:七日目】 中薗英助『夜よ シンバルをうち鳴らせ』(2020.05.28)
- 【七日間ブックカバー・チャレンジ:六日目】 安彦良和『虹色のトロツキー』(2020.05.27)
- 【七日間ブックカバー・チャレンジ:五日目】 上山安敏『神話と科学──ヨーロッパ知識社会 世紀末~20世紀』(2020.05.26)
- 【七日間ブックカバー・チャレンジ:四日目】 寺島珠雄『南天堂──松岡虎王麿の大正・昭和』(2020.05.25)
- 【七日間ブックカバー・チャレンジ:二日目】 橋川文三『昭和維新試論』(2020.05.23)
「韓国/朝鮮」カテゴリの記事
- 吉川凪『京城のダダ、東京のダダ──高漢容と仲間たち』(2014.09.20)
- 井上勝生『明治日本の植民地支配──北海道から朝鮮へ』(2013.09.04)
- 【メモ】曺喜昖『朴正煕 動員された近代化──韓国、開発動員体制の二重性』(2013.08.04)
- 李学俊(澤田克己訳)『天国の国境を越える──命懸けで脱北者を追い続けた1700日』(2013.07.07)
- リ・ハナ『日本に生きる北朝鮮人 リ・ハナの一歩一歩』(2013.06.20)
コメント