春日孝之『イランはこれからどうなるのか──「イスラム大国」の真実』、宮田律『アメリカ・イラン開戦前夜』
春日孝之『イランはこれからどうなるのか──「イスラム大国」の真実』(新潮新書、2010年)
著者は毎日新聞のテヘラン支局長を務めた経験があり、特派員としてイランの人々と話をした感触を基にイランの政治社会の内在的な考え方を見つめようという姿勢を持っているので興味深く読んだ。関心を持ったポイントを箇条書きしておくと
・イランではイスラムだけでなく、古代ペルシア帝国に思いを馳せるナショナリズムも国民統合のロジックとして活用し始めている(イスラム革命初期にはナショナリズムは否定されていた)→アラブ人に対する優越意識。アメリカ映画「300」「アレクサンダー大王」で描かれたペルシア人イメージに不快感。
・「シオニスト」と「ユダヤ人」の区別。前者はイスラエルという侵略者なので否定する一方で、イラン国内に住むユダヤ人への配慮。イラン在住ユダヤ人は、キュロス大王がバビロン捕囚からユダヤ人を解放したという歴史を語る。
・イラン人は本当はアメリカ文化が好き。
・ウソも平気で使う生活感覚→極端な言動も額面どおりには受け止められない。アフマディネジャドの放言癖はイラン国内でも不評。「ホロコーストはなかった」等の発言→単に思いつきで口走ったものが、予想外に海外から大反響があったので味をしめただけではないか?
宮田律『アメリカ・イラン開戦前夜』(PHP新書、2010年)
タイトルは挑発的だが、アメリカとイランとがすれ違ってしまうそれぞれの内在的要因、具体的にはアメリカにおけるネオコンやユダヤ・ロビーの活動、イランにおける反イスラエル・イデオロギー、核開発問題、革命防衛隊、他方で改革派の動向などについて整理してくれる。アメリカの同盟国であると同時に中東諸国から受けの悪くない日本の積極的な中東関与の必要が指摘される。
なお、イランをめぐる情勢に関して最近読んだ本を以下に箇条書き。
・レイ・タケイ『隠されたイラン──イスラーム共和国のパラドックスと権力』(Ray Takeyh, Hidden Iran: Paradox and Power in the Islamic Republic, Holt Paperbacks, 2007→こちら)
・レイ・タキー『革命の守護者:アヤトラたちの時代のイランと世界』(Ray Takeyh, Guardians of the Revolution: Iran and the World in the Age of the Ayatollahs, Oxford University Press, 2009→こちら)
・ヴァーリ・ナスル『ザ・シーア・リヴァイバル:イスラム内部の衝突がいかに未来を決めるか』(Vali Nasr, The Shia Revival: How Conflicts within Islam Will Shape the Future, Norton, 2007→こちら)
・ジョン・W・リンバート『イランとの交渉:歴史の亡霊に取り組む』(John W. Limbert, Negotiating with Iran: Wrestling the Ghosts of History, United States Institute of Peace Press, 2009→こちら)
・スティーヴン・キンザー『すべてシャーの臣:アメリカによるクーデターと中東テロの起源』(Stephen Kinzer, All the Shah’s Men: An American Coup and the Roots of Middle East Terror, John Wiley & Sons, 2008→こちら)
・スティーヴン・キンザー『リセット:イラン・トルコ・アメリカの将来』(Stephen Kinzer, Reset: Iran, Turkey, and America’s Future, Times Books, 2010→こちら)
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