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2010年11月29日 (月)

植村和秀『昭和の思想』

植村和秀『昭和の思想』(講談社選書メチエ、2010年)

 「昭和」と一言でいっても様々な思想潮流が絡まりあってとりとめないし、ましてや150ページ前後という選書メチエのシリーズでも少ないページ数で描ききれるものでもない。そこを本書はあっさり割り切って定点観測の方法をとる。

 議論の前提としては、第一に、二十世紀における社会全体の政治化という趨勢(カール・シュミットを援用)を踏まえて昭和思想史は政治思想史にならざるを得ないこと、第二に、江戸時代生まれの世代が退場して伝統社会との断絶感が自覚された時代であることが指摘される。こうした事情を背景としながら「理の軸」と「気の軸」という座標軸によって思想史的見取り図を提示する(朱子学的な感じもする用語法だが、そうした趣旨の話題はない)。ある理念をもとに論理的に政治観を主体的に再構築するのが「理の軸」で、右に平泉澄、左に丸山眞男が配置される。対して、論理ではなく感覚的な勢いで物事を捉えていこうとする発想が「気の軸」で、ポジティヴな創造性に向かったものとして西田幾多郎、ネガティヴな糾弾行動に向かったものとして蓑田胸喜が位置付けられる。この座標軸を組み合わせながら、靖国神社問題、安保闘争、終戦、戦時期京都学派の世界新秩序構想、蓑田の言論妨害といった思想史的シーンが点描される。

 テーマが大きければ大きいほど、何らかのモノサシがなければ対象を把握するとっかかりがつかめない。どんな視点を設定するかが思想史家の腕の見せ所である。個々のエピソードに関しては著者のこれまでの研究を読んだことのある人には見慣れたものだろうが、その限られた材料を使うだけで大きな見取り図を描いてしまった工夫が興味深い。語り口はやさしいので初学者にもいいだろう。

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