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2010年11月21日 (日)

三井美奈『イスラエル──ユダヤパワーの源泉』、立山良司『揺れるユダヤ人国家──ポスト・シオニズム』、臼杵陽『イスラエル』、高橋正夫『物語イスラエルの歴史──アブラハムから中東戦争まで』ほか

 三井美奈『イスラエル──ユダヤパワーの源泉』(新潮新書、2010年)。国際社会をあてにせず自分たちの国は自分たちの力で守る──強硬な国防意識が常に過剰反応にすら見えてくるイスラエルの強烈な危機意識。これをいったいどのように捉えればいいのかという問題意識から、アメリカにおけるイスラエル・ロビー及びイスラエル本国における情報機関・国防関係者に行なったインタビューをもとに現代イスラエル事情を垣間見る。

 なお、本書でも言及されているジョン・J・ミアシャイマー(シカゴ大学)とスティーヴン・M・ウォルト(ハーバード大学)はネオリアリズムの国際政治学者で、『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』(Ⅰ・Ⅱ、副島隆彦訳、講談社、2007年)では、イスラエル・ロビーの活動によってアメリカの対中東政策が国益から逸脱した不合理な方向にゆがめられていると批判したことで議論を巻き起こした。副島隆彦の名前が出ると胡散臭く思われるかもしれないが、内容はまっとうである(→こちらで取り上げた)。

 立山良司『揺れるユダヤ人国家──ポスト・シオニズム』(文春新書、2000年)。シオニズム運動はもともと非宗教的なナショナリズムとして始まった一方で、国家形成にあたってはユダヤ教的シンボルも動員された→宗教戒律と世俗主義の葛藤。世界中から「ユダヤ人」が移住して成立した多様性→ヨーロッパ系とオリエント系の摩擦。中東和平をめぐるイデオロギー対立。ホロコーストをめぐる歴史論争。アメリカ在住ユダヤ人のデュアル・ロイヤリティーなど、アイデンティティの葛藤に着目してイスラエル政治を考察する。

 臼杵陽『イスラエル』(岩波新書、2009年)は、様々な地域からの移民、さらには領域内マイノリティーとしてのアラブ人等をも抱え込んで多文化主義化する一方、その矛盾を糊塗するかのように高揚するナショナリズム、こうした葛藤における内在的政治力学に着目しながらイスラエル建国以来の現代史を描き出す。読みながらとったメモをいくつか箇条書きすると、
・イスラエルの宗教行政を所管する首席ラビ庁には、アシュケナジー系(ヨーロッパ系)首席ラビとスファラディー(本来はイベリア系だが、アジア・アフリカ系も統括)系首席ラビの二つの公職がある。
・イギリス委任統治期のユダヤ人社会では、社会主義シオニズム(→労働党)が主流となるのに対して、その対抗勢力として修正シオニズム(→リクード)が現れる(なお、修正シオニズムの指導者ジャボティンスキーについては以前に森まり子『シオニズムとアラブ──ジャボティンスキーとイスラエル右派 一八八○~二○○五年』[講談社選書メチエ、2008年]を読んだことがある→こちら)。
・ベングリオンは議会多数派形成のため宗教政党と妥協→宗教的現状維持協定→社会生活に宗教性が入り込むなど現在でも足かせに。
・建国第一世代シオニストは、無抵抗・受動的だったとしてホロコーストの犠牲者に冷淡、むしろゲットー蜂起を賞賛。一方で、非シオニスト的ユダヤ人(モロッコ系など)の流入に伴い、国民統合の材料としてアイヒマン裁判をきっかけにホロコーストを政治的シンボルとして利用。
・アジア・アフリカ出身ユダヤ人(ミスラヒーム=東洋系)に対しアシュケナジー系優位の社会的序列化、貧困→この不満が右派リクードの台頭、モロッコ系移民のブラックパンサーなどの暴発。なお、臼杵陽『見えざるユダヤ人──イスラエルの〈東洋〉』(平凡社、1998年)はこのユダヤ人社会の中で劣位に置かれたアジア・アフリカ系ユダヤ人ミスラヒームに注目して「オリエント」イメージを検討する論考を集めている。

 高橋正夫『物語イスラエルの歴史──アブラハムから中東戦争まで』(中公新書、2008年)は、古代史から現代までのユダヤ人の歴史を時系列に沿って概説。どの年代に力点を置くわけでもなくフラットな叙述で必ずしも読みやすいわけではないが、情報量は豊富なので歴史背景の知識を補強する上では使える。

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