堤未果『ルポ貧困大国アメリカⅡ』
堤未果『ルポ貧困大国アメリカⅡ』(岩波新書、2010年)
ベストセラーの続編。民営化された学資ローンのため借金漬けにされてしまった学生たち、富裕層が中心を占める名門校との大学間格差、教育機会が将来の就業機会につながらない問題。GMなど大企業の破綻で社会保障を受けられなくなった人々。市場効率重視の医療保険業界、医療格差。発展途上国よりも人件費等コストの低い刑務所へのアウトソーシング、軽犯罪は貧困層が中心だが厳罰化・刑務所内での借金漬けによる社会復帰困難。こうした過剰な市場主義による効率性優先によって蝕まれた現代アメリカ社会を取材したノンフィクション。努力すれば誰にも将来の可能性はあると信じられるのがアメリカン・ドリームだったはずだが、それが自由=市場効率性と読み替え→一度不利な立場に立つとそのまま転落し続けてしまう、こうした形で敗者復活の機会が奪われていることが読み取れる。政治的自由と市場の自由とではその基準を置く位相が異なる、と言えるだろうか。
どうでもいい蛇足だが、著者は最近、川田龍平参院議員と結婚して、川田議員は最近、みんなの党に入って、みんなの党は市場効率重視の政策を掲げている、ということは、夫婦で政治的見解が異なっている、ということか。他人事なのにお節介だけど。
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