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2010年11月12日 (金)

ASEANについて5冊斜め読み

 私が生まれたときにはすでにASEAN(Association of South-East Asian Nations)は存在していたのでその活動はもう自明のように思っていたのだが、実際には色々と波乱含みの中で生成してきたようだ。山影進『ASEAN シンボルからシステムへ』(東京大学出版会、1991年)はASEANの形成過程を分析する(本書刊行の時点での加盟国は6カ国)。ASEANの前史としてはマラヤ・フィリピン・タイのASA(東南アジア連合、1961年)、マラヤ・フィリピン・インドネシアのマフィリンド(1963年)があるが、これらがそのままASEAN形成につながったわけではない。マレーシア連邦成立時の国家形態や領土要求をめぐって紛争が生じており(対インドネシア、フィリピン)、むしろその緊張緩和プロセス(1966~67年)の中からASEANは生まれた。インドネシアではスカルノの「マレーシア粉砕」政策→スハルトは善隣外交のサイン、フィリピンではマカバカルの強硬姿勢→マルコスはサバ領有権主張の棚上げ、マレーシアではラーマンの強硬姿勢に対してラザク副首相たちのイニシアティヴ、タイによる紛争仲介の労、シンガポール独立→都市国家としての脆弱性を意識して友好国を増やし、敵対国を減らす外交方針、こうしたそれぞれの要因も働く中で1967年8月に各国外相が集まってバンコク宣言(ASEAN設立宣言)が出され、具体的な問題は曖昧にしたまま相互信頼醸成を目的として停戦→和解→協力の大転回が行われた。当初は成立の法的基盤も曖昧な同床異夢の関係ではあったが、対話や合意の蓄積を通して協力関係の範囲は拡大・具体化、不文律としてのASEAN的慣行(内政不干渉、相互批判は抑える、各論における異議は総論の中にゆるやかに包み込む)を互いに尊重しあいながら徐々にルールが明文化されていった。

 山影進編『転換期のASEAN──新たな課題への挑戦』(日本国際問題研究所、2001年)はベトナム(1991年)、ラオス・ミャンマー(1997年)、カンボジア(1999年)のASEAN加盟を踏まえてASEANの性格的変化に関わる論点がそれぞれ検証される。ベトナム→カンボジア情勢安定化の枠組みとしてASEAN重視。ASEANの内政不干渉原則→民主化・人権などの問題を抱えるミャンマー・カンボジアに対してどのような態度をとるか? 域外大国との関係→対米、対中、非核地帯構想について。南シナ海の領土紛争→加盟国の利害不一致や対中関係もあって複雑、中国を会議外交の中に引き込むことができた点では成功、ただし、その後の展望は見えていない。

 黒柳米司編著『アジア地域秩序とASEANの挑戦──「東アジア共同体」をめざして』(明石書店、2005年)は、東アジアにおける協力関係の可能性に力点を置きながらASEANについて考察した論文集。ASEAN Way(内政不干渉主義、漸進主義、非公式主義、コンセンサス形式)の検討。中国の対ASEAN政策→相互依存下の戦略。ASEAN域内・域外の経済協力。「大メコン圏」開発計画→中国(雲南)も取り込む。インドネシア選挙監視を例に国際NGOの活動について→政府間は内政不干渉主義であるのに対して、NGOのトランスナショナルなネットワークを通して民主化への社会的基盤作りに努力。海賊、イスラム・テロを例に非伝統的安全保障について→個別の安全保障能力や国際協力がついていかず。権威主義的開発体制→マハティール政権を検証。「東アジア共同体」構想の条件を考察。開発、民主化、安全保障の相互連関について援助体制との関わりで検証。ARF(ASEAN地域フォーラム)の広域安全保障協力→大国のパワー・ポリティクスに対してASEAN Wayで運営の主導権をにぎろうとしているがなかなか難しい。

 木村福成・石川幸一編著『南進する中国とASEANへの影響』(日本貿易振興機構、2007年)は中国のASEANに対する経済活動を各国別に分析。中国は2003年に東南アジア友好協力条約に域外国として初めて署名して戦略的パートナーとなり、2004年にFTA調印、2005年7月から関税引き下げ開始(中国脅威論を払拭したいという意図)、具体的な経済活動でも2002年以降、中国の対ASEAN貿易、投資、経済協力は急激に増加している(背景には中国の走出去政策)。ただし、国や産業品目ごとに中国からの影響のあり方は違ってくるようだ。日系企業進出先では、少なくとも現時点では例えば自動車や機械製品では品質やアフターサービス、購買層の相違などで棲み分け(むしろ日系のライバル韓国)、ただしそれでも分野によっては中国からのキャッチアップに危機感があるらしい。

 石川幸一・清水一史・助川成也編著『ASEAN経済共同体──東アジア統合の核となりうるか』(日本貿易振興機構、2009年)。2003年の第二次ASEAN協和宣言では将来的な単一市場・共同市場を目標として掲げ、2007年11月に各国が署名、2008年12月に発効したASEAN憲章(従来、ASEANの存立根拠はバンコク宣言にあったが、憲章の制定により規範的明文化)では2015年にASEAN共同体の実現を期することになった。ASEAN共同体はASEAN安全保障共同体(ASC)・ASEAN経済共同体(AEC)・ASEAN社会文化共同体(ASCC)の三本柱から成るが、本書はAEC実現に向けた現在の取り組みを考察する。具体的には、AFTA(ASEAN自由貿易地域)の活用(水平分業の強化と地場産業の競争力育成、市場規模拡大、世界的な自由貿易体制への準備を目的として関税削減)、非関税障壁への対処、サービス・投資・熟練労働者の自由な動きと相互承認協定(MRA)、知的財産制度(問題の多くは中国製のニセモノ)、新規加盟4カ国と先行加盟6カ国との経済交流、物流の円滑化、地球環境協力、日本の関与のあり方(中国リスク回避などの利点)などの論点が検証される。色々と問題はあっても具体的な議論を徐々に積み重ねながらAEC実現に向けた歩みは着実に進められている様子である。

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