デイヴィッド・ハルバースタム『ザ・コールデスト・ウィンター 朝鮮戦争』
デイヴィッド・ハルバースタム(山田耕介・山田侑平訳)『ザ・コールデスト・ウィンター 朝鮮戦争』(上下、文藝春秋、2009年)
政府・軍司令部から現場で動員された兵士たちまで、資料やインタビューに基づき、朝鮮戦争をめぐる様々な人間模様を主にアメリカ側の視点から立体的に描き出したノンフィクション。一人ひとり癖のある面々を明確に性格づける筆致はときに独断的にも感じられるかもしれないが、描写力にメリハリをつけたアクセントとなって読みやすい。
当たり前の話だが、戦争というのは単に物量や技術力で算定された軍事力のぶつかり合いというだけでなく、それらを組織・運営する人間の問題、モラールやリーダーシップの問題が決定的な戦局の帰趨を決めてしまう。数学の公式のように戦力計算で結果が予測できるものではなく、人間的要因が思いがけないところから色濃くにじみ出てきてしまう。マッカーサーのパフォーマティヴな自信過剰。中国軍の介入などないと信じるマッカーサーにへつらう取り巻きはそれを前提に情報操作、現場から上げられた情報を無視。政権高官のイデオロギー的フィルター。人種的偏見から相手をみくびる指揮官。様々なレベルでの誤算や失敗が絡まりあって、この戦争という凄惨なドラマが漂流するかのように進行する様が大きく浮き彫りにされる。
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