何盛三についてメモ
何盛三(が・もりぞう)の名前は老荘会等の人脈でよく見かけていたものの、何者か知らなかった。潘佩珠(川本邦衛・長岡新次郎編)『ヴェトナム亡国史・他』(平凡社・東洋文庫、1966年)所収の解説論文である長岡新次郎「日本におけるヴェトナムの人々」を読んでいたら彼のプロフィールが紹介されていたのでここにメモしておく。本書所収の潘佩珠「獄中記」は政教社の雑誌『日本及日本人』掲載の訳文を底本としており、訳者名は南十字星となっているが、これは何盛三のペンネームとされている。また、後年、落魄したクォン・デのもとを訪れる数少ない一人として彼の名前も挙げられている。
明治18年、東京出身、旧幕臣で海軍伝習のため榎本武揚らと共にオランダ留学経験のある赤松則良の三男。長崎で帰化した中国人の家柄である何家の養子となった。養父は幕府の唐通詞だった。学習院を経て京都帝国大学法学部経済学科に入学、河上肇の授業も受けた。卒業後は住友鉱山、久原鉱業などに勤務、しかし俸給生活にあきたらず、大正5、6年頃に辞職。この頃から中国語、エスペラントに習熟し始め、数回中国大陸にも渡る。善隣書院の教師をしたり、「北京官話文法」を著した。大正8年、老荘会の会員となる。この頃、大川周明ら猶存社のメンバーになったのではないかと推測されている。昭和22年、満洲ハルビンから引揚、昭和26年青森県八戸市で死没。長男の何初彦氏の言として、軍人や権威を笠にきていばる連中が嫌いで、一生「官」に仕えることをしなかった点が彼の人格的、思想的特色でもあろうか、とのこと。
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