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2010年10月31日 (日)

バートン・ゲルマン『策謀家チェイニー──副大統領が創った「ブッシュのアメリカ」』

バートン・ゲルマン(加藤祐子訳)『策謀家チェイニー──副大統領が創った「ブッシュのアメリカ」』(朝日選書、2010年)

 著者はジャーナリスト、本書のもととなった連載でピュリッツァー賞を受賞。原題のAnglerは「釣り人」という意味。チェイニーの趣味が釣りだったのでシークレット・サービスがつけたコードネームらしいが、あちこちに餌や罠を仕掛けて人を動かそうとする彼の強引な政治工作のイメージを重ねて「策謀家」と意訳されている。ブッシュ政権に巣食ったネオコンを中心とする勢力の元締めとしていまや悪名高いチェイニーだが、ブッシュの大統領選出馬からイラク戦争失敗に至るまで政権内部における彼の動きを逐一たどったノンフィクションである。副大統領には本来それほど活躍の場があるわけではない。しかし、直観で動くブッシュに代わって、緻密で計算高くしかもアグレッシブに精力的なチェイニーが各省庁に配置した人脈を通じて政権の具体的な采配を進めていく。とりわけ政府におけるホワイトハウスの一貫した優越性、安全保障体制強化に彼はこだわり、邪魔する者は容赦なくつぶしていく。彼の強引な行動力は、見ようによっては痛快にすら感じられてしまうほどだが、その行き過ぎが誤った情報に基づくイラク開戦、アブグレイブやグアンタナモの「捕虜」問題につながり、ブッシュ政権の失墜、アメリカ政治への不信を招いてしまう。例えば、ボブ・ウッドワードのブッシュ政権ものやジェームズ・マン『ウルカヌスの群像』といったタイプの政権内幕ものノンフィクションが好きな人には興味深く読めるだろう。

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