亀山哲三『南洋学院──戦時下ベトナムに作られた外地校』
亀山哲三『南洋学院──戦時下ベトナムに作られた外地校』(芙蓉書房出版、1996年)
・戦争中、サイゴンに開校した南洋学院第一期生の著者によって学院生活、現地応召されて見聞した戦争、戦後の混乱についてつづられた手記。
・南洋学院は昭和17年に仏印総督(フランス)の認可、第一陣は同年12月にサイゴン到着、18年1月に正式開校。戦後の昭和21年2月2日付けで正式に廃校。設立母体は南洋協会、専門学校令に準拠、東亜同文書院にならった運営。農業・経済の総合、修業年限3年(後に短縮)、1学級30名で全寮制の規律生活。到着当初は風土病に難儀。農村調査旅行。事前に小松清『仏印への途』を読んでいる。
・ベトナム語、フランス語を学んだ。サイゴンの中華街ショロンでは北京語ではなく広東語や福建語が必要。
・フランス映画館ではヴィシー政権の標語、ラ・マルセイエーズの演奏。
・昭和19年5月5日、初めてのサイゴン空襲。
・ベトナム語の若い先生に「なぜ小学校がないのか?」と質問。先生に案内されたのはみすぼらしい建物。彼は教育施設の貧弱さを指摘した上で「フランス総督を頂点としたアンシャン・レジームそのものだ」と言ってベトナム独立を熱く語り、その中で越盟や阮愛国の名前も出てきた。
・修業年限が2年余に短縮されて繰り上げ卒業→就職してすぐ現地入隊。昭和20年3月9日の明号作戦(日本軍の仏印進駐後しばらくは日本・フランス共同統治という形をとっていたが、日本が武力クーデターによってフランスを攻撃)にも参加。この時、南洋学院の在校生もフランス民間機関の接収に動員された。
・大隊長の通訳。「皇軍」「御稜威」「八紘一宇」…フランス人相手に何て訳せばいいんだ?→適当に「生命・安全は保障する、今までどおりに仕事しろ、情報があったら教えること」と訳してつじつま合わせしたらみんな納得、その表情を見てフランス語の分からない大隊長も納得。
・少数民族モイ族のフランス軍下士官→フランス軍には愛想がつきたから日本軍に協力したい、と言ってきた。彼と一緒に行動しながらモイ族の風習を知る。「モイ族は…」と言いかけると、「モイ」とはベトナム語で「馬鹿」という意味だからやめてくれ、モンタニャールと呼んでくれ。フランスもいやだが、安南人も嫌いだ、自分たち自身の国は作れないか、と相談してきた。
・日本の敗戦。北部には中国軍(国民党)と大越党、ベトミン、フランス軍が入り乱れ、それぞれから残留日本人は勧誘された。中国国民党の威を借りる日本人、フランス軍に入った日本人、ベトミンに身を投じた日本人と様々。著者も解放同盟から誘われている。
・8月15日直後のハノイで、日本人ではなく(中には「日本軍、ありがとう」と声をかける人もいた)、フランス人がベトナム人によって襲撃されているのを目撃。
・当初、ベトミンは日本軍とは対立せず、イギリス軍との衝突も避けていた。フランス軍が上陸し、日本軍がそれに協力する構図になって攻撃対象に。
・昭和21年1月になって武装解除→捕虜収容所へ。病院で通訳。フランス軍にいたベトナム人にも北のベトナム民主共和国に共感する者がいて相談を受けた。
・戦争中、イギリス軍捕虜を見かけたが衛生状態が極めて悪そうだった。戦後、残虐行為を行った日本兵の戦犯追及。中国軍占領区にいた将校は追及から逃れた。
・最後に、戦後の日越交流について。
・巻頭に南洋学院の時の写真。中の一枚、ベトナムの日本留学生が出発前に南洋学院を訪れたときの写真に、グエン・スアン・オアインも映っている。彼は京都帝国大学に留学、経済学を修め、戦後はアメリカ留学、IMF勤務を経て、南ベトナム政府の中央銀行総裁、ベトナム統一後も残留し、ドイモイの提唱者として知られる。坪井善明『ヴェトナム──「豊かさ」への夜明け』(岩波新書)を参照。
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