森美根子『台湾を描いた画家たち──日本統治時代 画人列伝』
初めて台湾へ行ったとき、まず定番通りに故宮博物院を見学した。観光客であふれ返って息苦しい喧騒から逃れたいと思っていたとき、人のほとんどいない特別展示室を見かけた。水彩画だった。例えば風景画は、かすみの中へと消えていきそうな淡い輪郭のタッチ、それがどことなく幻想的で美しい。李澤藩という人の特集展示だった。年表パネルを見ると日本統治期に育った人で、彼の師匠にあたる石川欽一郎の名前もこのときに初めて知った。台湾史を考えるときどうしても植民地支配、族群政治、中台対立といった政治史的なテーマに目を向けることが多くなってしまうが、美術的にも興味深いものを持っていること、台湾における西洋的近代絵画導入に日本も関わりがあったことに今さらながら気づき、関心を持った。
森美根子『台湾を描いた画家たち──日本統治時代 画人列伝』(産経新聞出版、2010年)は、日本統治期に芸術的才能を開花させた台湾人18人(倪蒋懐、黄土水、陳澄波、藍蔭鼎、陳植棋、顔水龍、楊三郎、李石樵、李梅樹、李澤藩、廖繼春、洪瑞麟、蓼徳政、許武勇、林玉山、郭雪湖、陳進、林之助)、それから教育指導に当たったり台湾の風物の魅力にのめり込んだりした日本人3人(石川欽一郎、塩月桃甫、立石鐵臣)、合計21人のプロフィールを紹介してくれる。『アジアレポート』誌の連載をまとめたものだが、以前、立石鐵臣や石川欽一郎に関心を持って文献探しをしていたときにこの連載の存在を知り、図書館でコピーして目を通したことがあった。台湾の近代美術史に関する日本語文献は少ないので、一冊の本としてまとめられたのは喜ばしい。
なお、立石鐵臣についてはこちら、石川欽一郎と李澤藩についてはこちらで取り上げたことがある。また、台湾近代美術史に関する書籍としては、李欽賢《台灣美術之旅》(雄獅図書、2007年→こちら)、同《追尋台灣的風景圖像》(台灣書房、2009年→こちら)、頼明珠《流轉的符號女性:戰前台灣女性圖像藝術》(藝術家出版社、2009年→こちら)をそれぞれ取り上げた。
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