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2010年9月23日 (木)

酒井亨『「親日」台湾の幻想──現地で見聞きした真の日本観』

酒井亨『「親日」台湾の幻想──現地で見聞きした真の日本観』(扶桑社新書、2010年)

 著者の『哈日族』(光文社新書)は現代台湾社会のポップ・カルチャーに目配りされていて興味深く読んだ覚えがあるが、今度は「萌日」なるキーワードを出してきた。台湾の「親日」派というと植民地統治期に日本語教育を受けた老人たちを思い浮かべがちだが、若い世代の場合、マンガやアニメ、Jポップなど、とにかく面白さをきっかけに日本へ関心を寄せている分だけより自然な感じがする。老人世代も含めて台湾の日本に対する好印象の理由は、戦前の植民地支配の是非ではなく、戦後における平和で豊かな社会としての日本にあるという。その意味で日本は十分な「ソフト・パワー」を持っているという指摘が本書の勘所だ。

 日本の保守派は台湾人から戦前の日本をほめる言葉を聞きたがり、同様に左派は日本を批判する言葉を聞きたがる。しかし、いずれも日本側本位の態度を取っている点では同断で、台湾がどのような歴史的経緯の中で日本を見ているのかという相手側の事情は無視されているのではないか、という指摘は傾聴すべきだろう。

 私は初めて台湾へ行ったとき総統府や二・二八紀念館を訪れ、館内では日本語世代の方に解説していただいた。その方々が口々に蒋介石と国民党を罵り(当時は民進党政権)、それに比して日本統治期をほめたたえる言葉には (予期していたとはいえ)驚いた。ただし、「植民地の時代、私たちは差別されて嫌な思いをしました。それでも、国民党はもっとひどかった…」という語りの微妙なニュアンスも聞き逃さなかった。台湾はよく「親日」的と言われるが、それは日本統治期を手放しで礼讃するものではなく、二・二八事件や白色テロをはじめたとした国民党の恐怖政治や失政との比較の中であくまでも相対評価である点に留意しなければならない。同行した友人(渡航歴十数回の自称「台湾通」であるにもかかわらず二・二八事件すら知らなかった体たらく)は、件のご老体の語りに混じっていたそうした微妙な留保条件がまるで耳に入らなかったように「台湾で真の日本人に出会った!」などとアホなはしゃぎぶり。そういう類いの不勉強な自称「台湾通」、自称「保守派」にこそ本書を読んでもらいたい。版元が扶桑社なのは、そうした読者層をねらった戦略的判断か?

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